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近美展示『ARTS & ROUTES~あわいをたどる旅』準備編 vol.2

投稿者:小松 和彦 投稿者:小松 和彦 小松 和彦

2020年11月28日から秋田県立近代美術館で開催される「ARTS & ROUTES -あわいをたどる旅-」に秋田人形道祖神プロジェクトが参加いたします。こちらは江戸時代の紀行家・菅江真澄が残した旅の軌跡をテーマに、秋田で表現された作品を集めた企画展です。

近美展示『ARTS & ROUTES~あわいをたどる旅』準備編 vol.1はこちら(vol.1のつづきは、宮原が別途「vol.1.5」としてご紹介予定です)

私たちは「人形道祖神研究のパイオニア」でもある真澄の遊覧記をオマージュしながら、道祖神の過去と現在を描く作品を出展いたします。今年、北秋田市で取材したルポタージュを元に宮原さんが絵画を制作、本2章分ほどのボリュームをよりダイナミックに読む感覚で楽しんでいただける展示になります。

私たちのブースのすぐ脇では、なんと約200年前に菅江真澄が道祖神を描いた図絵も何点か展示されます。その中にはおそらく秋田の人形道祖神を詳しく記録した最も古い資料と思われる桐内村の泥塑天子(避疫神蒭霊)の図絵も。実はこの「泥塑天子」こそが、今回私たちの展示の大きなテーマでもあるのです。

森吉ダムをのぞむ神社に祀られた「泥塑天子」の子孫と思われる人形の頭部

さらに実物の人形道祖神も展示されることなりました。実物といっても神様に村から出てきてもらうのはさすがに恐れ多いので、公立博物館に収蔵されている資料をお借りすることに。横手市の平鹿農村文化伝承館から平成2年に樽見内の皆さんによって作られた「鹿島大明神(カシマサマ)」が、秋田県立博物館からは山田のジンジョサマ(大館市)と小掛のショウキサマ(能代市)が来てくれることになりました。

道祖神の搬入は近代美術館、県立博物館の学芸員さんの他、今回の展示会を企画していただいている秋田公立美大とNPO法人アーツセンターあきたの皆さんによって11月16、20日の両日行われました。私も現場に立ち会わせていただきました(宮原さんは作品制作に追われて断念)その様子をレポートします。

11月16日、平鹿農村文化伝承館から「鹿島大明神」を運びました。秋田美大の尾花健一さんが運搬用のコンテナを制作。現在は閉館中の伝承館から、カシマサマを運び出します。20年前に作られたとは思えないほど、保存状態がいいカシマサマ。しっかりと作られていることが、随所にうかがえました。

カシマサマは『あわいをたどる旅』の展示室ではなく、そこから少し離れたホールに展示されました。近くには近代彫刻の傑作であるロダンの「青銅時代」が。美術館の開館記念として●億円で購入されたロダンの作品と並んでも、カシマサマは貫禄負けしません!「ロダンが3億ならカシマは10億だ」と秋田市で画廊を経営する小松さんは語ったとか。

11月20日には秋田県立博物館に収蔵されている小掛のショウキサマと山田のジンジョサマの搬入が行われました。小掛のショウキサマは金色の目が男神、銀色の目が女神なので、銀色の目をしたこのショウキサマは女神に違いないと思っていたのですが、前垂れを上げると立派な男性のシンボルが。どうしてこうなったのか、大きな謎です。

ショウキサマは私たちの展示ブースの一角に置いていただけることに。今回の作品は真澄が記録した「泥塑天子」から小掛のショウキサマへと至る物語をベースにしているだけに、これ以上ない強力な神様の助っ人に来ていただきました。ありがたや~。

このショウキサマは昭和49年、秋田県立博物館の開館時に小掛の皆さんによって作られたもの。制作から45年経っていますが、目立った痛みもなく迫力十分です。

山田のジンジョサマは男女一対で展示室の入口近くに設置されました。これらは昭和48年に制作されたとのこと。現在のジンジョサマに比べるとやや小ぶりですが、手足はきれいに編まれており、達人によって作られたことをうかがわせます。衣が手編みのゴザであること(現在は既製品)、褌が布であること(現在は紙)など、今では見られない素材が使われた貴重な資料です。

所沢の角川武蔵野ミュージアムで絶賛開催中の『荒俣宏の妖怪伏魔殿』では秋田の人形道祖神が一堂に見られますが、この『あわいをたどる旅』でも見ごたえのある道祖神の展示ができました。さらに菅江真澄が描いた道祖神の貴重な原画と私たちの新作ルポもご覧いただけますので、人形道祖神が気になる方は会期中に是非、足をお運びください。

そして11月21、22の両日、私たちの作品の設営を行いました。今回ブースを一緒に作っていただけるのは、デザイナーの越後谷洋徳さんと、アーツセンターあきたの高橋ともみさん。経験豊富なお二人の才能が宮原さんの絵画的なイメージを具体化していきます。結局、準備は二日間では足らず、もう一日頑張ることに。越後谷さんと高橋さんがいなければ、この設営は無理でした。お二人には本当に感謝してもしきれません。作品や展示設営に関しては改めてブログで紹介いたします。

ARTS & ROUTESあわいをたどる旅

2020年11月28日(土)~2021年3月7日(日)
(休館日:12月29〜31日及び、1月13〜22日)

会場:秋田県立近代美術館

※『ARTS & ROUTES~あわいをたどる旅』関連記事
準備編 vol.1 「美術館視察」
準備編 vol.1.5「カシマサマ調査」
準備編 vol.2 「カシマサマを運び入れる」
リサーチ編 vol.1 ルポルタージュ形式に決まった経緯
リサーチ編 vol.2 いざリサーチの旅へ(前編)
リサーチ編 vol.2 いざリサーチの旅へ(後編) →今回の記事
展示デザイン編「展示空間の作り方」
解説編 vol.1 「ついに開幕!」

Writerこの記事を書いた人

投稿者:小松 和彦
郷土史研究 小松 和彦
工芸ギャラリー・小松クラフトスペース店主 『秋田県の遊廓跡を歩く』(カストリ出版)、 『新あきたよもやま』(秋田魁新聞デジタル版) などを執筆。 http://www.komatsucraft.com/ Twitter @Komatsucraft