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実際のリサーチの流れをご紹介<後編>

投稿者:宮原 葉月 投稿者:宮原 葉月 宮原 葉月

 現在秋田県立近代美術館で開催中の「ARTS & ROUTES~あわいをたどる旅」展出展作品の元になったリサーチ編「後編」です。前編では多くの皆様の”連鎖的”なご協力のおかげで実現することができましたが、後編は果たしてどうなることでしょう。

 前編では下記マップの「1」から「4」までを、後編では「5」から「8」までをご紹介します。時系列は前後しますが、地理的に北上するイメージで進みます。途中いくつかリサーチの難しさをお伝えできるエピソードを織り交ぜました。

5. 桂瀬のショウキサマ

 別件の調査で「桂瀬の昔の様子を8ミリフィルムで克明に記録した白澤 昭喜さんにお話を伺いたい」と考えた小松さん。白澤さんに取材のアポイントを取りました。折しも展示の調査とタイミングが重なり、私も同行することに。

 若い頃からカメラや八ミリを持ち歩いていた御年80代の白澤さん。桂瀬の昔の様子を鮮明に記憶されており、7月に行われていた「虫追い」について「すごい人数で村を一周歩いたものだ」とお話しくださったり、8ミリフィルムに記録された農業の近代化やお盆の時期に作る棚や「万灯火」について詳しく教えてくださいました。

 個人的に印象深かったのは、旧森吉町にあった2つの炭鉱(東北無煙炭鉱・奥羽無煙炭鉱)によって昭和30年代に栄華を極めた話です。旧森吉町から索道(リフトのようなもの)で運ばれてくる石炭は、国鉄阿仁合線・桂瀬駅前の鉱業所で選炭され、貨車に詰め込まれ出荷されました。かつては鉱業で栄えた桂瀬。「教師や国鉄で勤めるより稼げたので転職する人が多かったよ」と白澤さん。現在の静かな桂瀬にはかつて栄枯盛衰の歴史があったのだ、とノスタルジックな気持ちになりました。
 そしていよいよ、小松さんがこう切り出しました。

 「白澤さん、こちらにワラで作られた人形はありましたか」

心臓からドクンドクンと鼓動が伝わってきます・・・

 「駅にいく途中に、昔はワラの人形があったよ」

「おおお~!!!」と吠える私たち。喉から手が出るほど欲しかったお言葉を頂戴することができました。

 詳細は是非、展示でお楽しみくださいませ。白澤ご夫妻のショウキサマに関するやり取りがとても朗らかで、その様子も展示でご紹介しています。

桂瀬には3か所に「八坂神社」と彫られた石碑があります。写真の石碑はワラのショウキサマがあった場所

 昭和33年に白澤さんが八ミリで撮影されたお葬式の風景に、道祖神らしきものが小さく映っていることに気付いた小松さん。「言われてみれば、確かに道祖神にみえるかも」と私。白澤さんに確認してみると「う~ん、ここにショウキサマはなかったと思う。あったら絶対(写真に)撮ってる。」
 正体を突き止めたくなった私たちは、該当する集落へ向かいリサーチを開始。道祖神らしきものが映る写真を片手に、集落の中を訪ね歩きました。

 集落の皆様からのお話で写真の場所を特定することができましたが、その場所が「村境」でないこと、また「ワラニンギョウがあったと聞いたことはないなあ」という証言が出てくるなど、先行きがなかなか厳しい状況。日が暮れて周囲は薄暗くなってきます。「この村で一番詳しいのは○○さんだから聞いてみて」と教えてもらい、集落の長老にお話を伺いに向かいました。結局「ニンギョウは作っていないが、『道切り』は作っていた」ことが判明。ニンギョウがあれば大発見でしたが、リサーチは積み重ねが大切、時にこのようなこともあります。
 しかしなかなかスリリングな調査でした。

6. 浦田のショウキサン

  小松さんがステイホーム中にみつけた文献の中に記載された「浦田のショウキサン」。その痕跡を確認するため浦田を訪れました。最初に神社に向かいますが、庚申塔はあるものの道祖神の痕跡は見つかりません。近くから華やかな女性の声が聞こえてくる美容院を訪ねました。美容師の方曰く「私は他所から来たからわからない。シンカンサン(神官さん)に聞いてみて」とのこと。詳細は展示に委ねますが、残念ながらショウキサンの存在を今のところ確認できていません。

 ちなみに前述の白澤さんにも浦田のショウキサンについて尋ねてみましたが、戦時中は桂瀬と隣の浦田集落では子どもたち同士の戦争ごっこが流行り、石を投げられたりよくケンカしたそう。「おっかなくて浦田(へ通じる大きな道)へは行けなかった」とのことでした。

 実は他にも、北秋田市に「道祖神があったらしい」場所があり、車で山を越えリサーチを行っています。情報源は小松さんのお店のお客様、Eさんです。子どもの頃に「隣の集落の人々が祀っていたショウキサマをみたことがある」と教えてくださいました。「小掛のショウキサマのような姿だったと思う」「(ショウキサマは)怖くはない。峠の向こうから悪いものが入ってこないように守ってくれる神様だった」とのこと。

 現地を調査で訪れましたが、痕跡のようなものは残っておらず、郵便局で話を伺うも、ご存知の方はいらっしゃいませんでした。

7. 田代のショウキサマ

 角川武蔵野ミュージアムで展示するショウキサマを作っていただく為、昨年6月に小掛集落を取材させていただきました。すると小掛区長の成田政弘さんが「上流の村にもショウキサマのような神様があるよ」と声を掛けてくださいました。「是非教えてください!」と私たち。一緒に田代地区の七右衛門集落へ向かうことになりました。

 かつては木材を運ぶトロッコ車が走っていた田代地区。また2005年に廃校となった二ツ井町立田代小学校の建物が印象的な場所です。

 成田さんから清水 初男さんをご紹介いただき、「田代のショウキサマ」についてお話を伺いました。当時はどのようなお姿だったのか、お祭りはどのようにされていたのか、詳しくお分かりになる方は現在いらっしゃらないそうですが、現地の文化圏が阿仁地域と密接な関係であることがわかり、大きな手ごたえを得ることができました。

8. 小掛のショウキサマ

 ついにゴール地点の小掛集落に到着!
「小掛のショウキサマ」は出品作品「幻の泥塑天子(どうそてんし)を探して」のインスピレーションの源になった道祖神です。

 角川武蔵野ミュージアム案件をきっかけに何度も集落へお邪魔させていただく中、よそ者である私たちの顔を覚えてくださり、少しずつお話を聞かせていただけるようになりました。長老や集落の皆さんから教わった教えは私の心に深く刻まれ、「こんな貴重なお話が誰にも知られずに埋もれてしまってはいけない。もっと広く伝えていかなくては」という気持ちが溢れてきたタイミングで、「あわいをたどる旅」展という発表の場を頂くことができました。とても有難く、間に合わせるために無謀なスケジュールを立てましたが、死に物狂いで展示制作に集中しました。

 取材をさせていただいた皆様の多大なご協力がなければ、今回の発表は実現しませんでした。皆様に改めて御礼申し上げます。

 展示は3月7日まで。近くにお寄りの際はぜひ、お立ち寄りください。

※『ARTS & ROUTES~あわいをたどる旅』関連記事
準備編 vol.1 「美術館視察」
準備編 vol.1.5「カシマサマ調査」
準備編 vol.2 「カシマサマを運び入れる」
リサーチ編 vol.1 ルポルタージュ形式に決まった経緯
リサーチ編 vol.2 いざリサーチの旅へ(前編)
リサーチ編 vol.2 いざリサーチの旅へ(後編) →今回の記事
展示デザイン編「展示空間の作り方」
解説編 vol.1 「ついに開幕!」

「ARTS & ROUTES
あわいをたどる旅」

会期/2020年11月28日(土)~2021年3月7日(日)
(休館日:12月29〜31日及び、1月13〜22日)
会場/秋田県立近代美術館
観覧料/一般1,000円(800円)/高校生・大学生500円(400円)
※中学生以下無料、( )内は20名以上の団体および前売の料金、学生料金は学生証提示、障害者手帳提示の方は半額(介添1名半額)
主催/ARTS & ROUTES 展実行委員会(秋田県立近代美術館・AAB秋田朝日放送)・秋田公立美術大学

Writerこの記事を書いた人

投稿者:宮原 葉月
イラストレーター 宮原 葉月
広告・書籍・雑誌でイラストを描く。 「LOWELL Things」(ABAHOUSE)とのコラボバッグ、 シリーズ累計49万部「服を買うなら捨てなさい」(宝島社) 装画等を担当。 http://hacco.hacca.jp Twitter @hatsukimiyahara