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「カシマサマ調査」~近美展示に向けて準備編

投稿者:宮原 葉月 投稿者:宮原 葉月 宮原 葉月

 『ARTS & ROUTES~あわいをたどる旅』展の会場に数体の人形道祖神を展示しようと昨年8月、コーディネーターの岩根裕子さん(アーツセンターあきた)とカシマサマ調査を行った過程をご紹介します。なかなかの珍道中になりました。

※『ARTS & ROUTES~あわいをたどる旅』関連記事
準備編 vol.1「美術館視察」
準備編 vol.1.5「カシマサマ調査」 →今回の記事
準備編 vol.2「カシマサマを運び入れる」
リサーチ編 vol.1 ルポルタージュ形式に決まった経緯
解説編 vol.1 「ついに開幕!」

 早い段階で秋田県立博物館所蔵の「小掛のショウキサマ(男)」と「山田のジンジョサマ」をお借りする計画がありました。

小掛のショウキサマ(撮影:草彅裕)昭和49年に制作されました。
地元の小掛集落では男女2体、道の駅「ふたつい」で男神が1体、角川武蔵野ミュージアムで女神が1体、そしてこちらの博物館所蔵の男神が1体、現在5体が確認されています。
山田のジンジョサマ(撮影:草彅裕)昭和48年に制作。
現在も作り続けられているジンジョサマと作りが微妙に異なり、比較すると大変興味深いです

 今回の調査目的は、博物館以外の別の場所で保管されている人形道祖神を確認すること。

 調査に出掛ける前、「ミュシャ展-アール・ヌーヴォーの華-」が開催中の館内にて、展示の担当空間を確認させてもらいました。
 壁面にいつも使う額を置いてみると、美術館の壁がとても高く、ギャラリーとは異なり額がちんまりみえました。「もっと大きい絵を描く必要がある」ことを認識。また「こんなに大きな壁面を有効に使うことができるだろうか」と心配になりましたが、実際にやってみると案外スペースが足りなくなるものだ、と今では思います。

 そして「小掛のショウキサマ」を収めるケースも確認。当初は下記のケースがコンパクトでよいのではと考えましたが、念のためショウキサマの寸法を測ったところ、収まらないことが判明。ショウキサマは思ったより大きく、事前に確認しておいてよかったです。

このときの小松さんは、膝に怪我があり、杖なしでは歩けませんでした
毎日包帯を変えても、表面に血が滲んできてしまいます。
歩くことも大変そうです。
別の日の小松さん。自転車から転げ落ち怪我を負いました。カシマサマ調査後に傷が悪化することに。

 さあいよいよ、カシマサマ調査へ出発です。この日は猛暑日。横手市はとても暑かったです。

 コーディネーターの岩根さん、美術館の学芸班/副主幹の鈴木秀一さん、そして私たちの4名で、最初に「平鹿農村文化伝承館」(横手市)に向かいました。こちらに樽見内のカシマサマらしきものが建物の風除室に置かれているのですが、いつも鍵が閉まっていてみることができません。この日は鈴木さんが横手市の文化財保護課の専門員の方に連絡を取ってくださっていたのでスムーズに拝見できる予定でした。

 15時に現場で待ち合わせをした専門員の高橋さんから、「本日はカシマサマをみることはできません!」と説明がありました。「ええ!?」「ここまで来ているのになぜ!?」と動揺が走ります。

 高橋さん曰く「伝承館の入口にスズメバチの巣ができてしまい、とても危険なのです」。「え・・・・」「樽見内のカシマサマをご覧になりたいのであれば、本物の方がありますから、ご案内いたします」とおっしゃっていただきましたが、本物のカシマサマは1ヶ月前にバッチリ取材させてもらっていました。「お借りしたいカシマサマの状況を確認させてもらいたく、目の前のカシマサマでないと、今回の調査の目的が果たせないのです」と高橋さんに訴えてみるも、スズメバチの巣がある限り、どうしようもありません。

 入口付近では数匹のハチがブンブン飛び回っています。なかなか諦めきれない私たちは、入口近くの様子を伺いながらウロウロしていると、少し離れたところで草刈りをしていたおじさま達に、「今だ!」と声を掛けられました。「今!?」「あ、今なら入口に飛び込めば刺されないということ!?」「だけどハチに頭を刺されたくない!」、恐怖のあまり逡巡していた私に、おじさま達は再び「今だよ!」と大きな声で言ってくださいます。すると私の目の前にいた専門員の高橋さんがドアを急いで開け、中に飛び込みました。私も「ええい!」と後に続きます。

 私はこのとき、非情な判断を下しました。杖がないと歩けないほど足の調子が悪かった小松さんを、後方に置き去りにしてしまったのです。いつもなら、私より先に彼に入ってもらうようにしますが、とにかくハチが怖かった。しかしカシマサマもみたい、ハチから逃げるように、自分が先に中へ入ってしまったのです。私のすぐ後に岩根さんも飛び込んできました。「今回は残念だけれど、小松さんは素早い移動が難しいので危ない。代わりに私たちが樽見内のカシマサマの様子を確認しよう」と考え直しました。

 すると、なんと小松さんも飛び込んできました。走ることもジャンプすることもできない彼がどうやって、誰の助けも借りずに来れたのか。後で確認したところ、「杖をカカカ!と高速で動かし、急いで中に入りました。」とのこと。申し訳ない気持ちで胸がいっぱいでしたが、カカカ、と執念で走る小松さんの様子をイメージすると思わず吹き出してしまいました。(スミマセン)

 こちらが樽見内のカシマサマ。平成2年に作られたそうですから、およそ30年前のもの。思ったより綺麗です。これならば美術館の展示もいける!と確信しました。
 ちなみにこのカシマサマには立派な男根があります。現在は作られていないので大変貴重です。
 普段はなかなかみることができない伝承館版「樽見内のカシマサマ」。今なら美術館でバッチリご覧いただけますよ。

 スズメバチの巣を乗り越えた私たちが次に向かったのは、ここから車で15分ほどの「雄物川郷土資料館」(横手市)。

「深井の鹿島流しの大人形」(横手市雄物川町)の写真もありました
鈴木さんと岩根さん。大きさや状態をチェックしています 

 展示されていた鹿島船と鹿島人形を確認させていただきました。雄物川流域では今でも各所で「鹿島流し」が行われています。貴重な資料をたくさん拝見させていただきました。

 無事カシマサマ調査を終えた私たちは、もう一度美術館に戻り、展示空間の再チェックを行いました。この間に小松さんからみるみる生気が失われていきました。暑さと歩き回ったことが原因かもしれません。翌日足の怪我が悪化し病院に行ったところ、医師から「このままいけば入院です」と宣告があったそうです。小松さんはしばらく安静を強いられることになりました。

 そして10月、運搬などの問題がクリアされ、平鹿農村文化伝承館所蔵の「樽見内のカシマサマ」をお借りできることになりました。

撮影/美術館の鈴木秀一さん

 上の写真は、学芸班の鈴木さんがカシマサマに虫がつかないよう、くん蒸をされた様子。「なるべく密封状態になるようにして中に薬剤を設置しました」とのこと。展示の裏ではこのように細やかに手をかけて準備がなされています。そして11月、トラックにカシマサマを載せて美術館へ運んでいくことになりました。準備編 vol.2「カシマサマを運び入れる」へつづく。

「ARTS & ROUTES
あわいをたどる旅」

会期/2020年11月28日(土)~2021年3月7日(日)
(休館日:12月29〜31日及び、1月13〜22日)
会場/秋田県立近代美術館
観覧料/一般1,000円(800円)/高校生・大学生500円(400円)
※中学生以下無料、( )内は20名以上の団体および前売の料金、学生料金は学生証提示、障害者手帳提示の方は半額(介添1名半額)
主催/ARTS & ROUTES 展実行委員会(秋田県立近代美術館・AAB秋田朝日放送)・秋田公立美術大学

小松さんが本日の記事をアップしてくれました。
「一冊の本を見渡すような空間」という言葉に、色々閃きを受けました。

Writerこの記事を書いた人

投稿者:宮原 葉月
イラストレーター 宮原 葉月
広告・書籍・雑誌でイラストを描く。 「LOWELL Things」(ABAHOUSE)とのコラボバッグ、 シリーズ累計49万部「服を買うなら捨てなさい」(宝島社) 装画等を担当。 http://hacco.hacca.jp Twitter @hatsukimiyahara