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角川武蔵野ミュージアムに人形道祖神を立てる

投稿者:小松 和彦 投稿者:小松 和彦 小松 和彦

角川武蔵野ミュージアムのグランドオープンから早一週間が経ちました。同会場で開催中の『荒俣宏の妖怪伏魔殿』でショウキサマやカシマサマの雄姿をたくさんの方がご覧になったのではないかと思います。

今回のオープンに先立つこと2週間前の10月24、25の両日、私と宮原さんは展示設営のため角川武蔵野ミュージアムへと向かいました。今回、人形道祖神のブースをプロデュースされたのは、私たちがいつもお世話になっているキュレーターの宮本武典先生。おおよその設営は宮本先生をはじめ、設営スタッフの皆さんの力で可能ですが、道祖神のパーツの組み立てなど細かい作業は制作に立ち会った者でしか分かりません。そこで私たちがお手伝いに行くことになったのです。

神野善治先生(右)と宮原さん

所沢へ行く前、「人形道祖神」の名付け親であり、私たちが敬愛してやまない民俗学者の神野善治先生に設営に関する相談を電話でさせていただいたところ、「私もお手伝いに行きましょう」というありがたいお言葉が!人形道祖神の展示にとって最強で最高の助っ人に来ていただけることになりました。

当日、神野先生と東所沢駅で待ち合わせをし、ミュージアムへ。初めて見るミュージアムの建物は想像よりもはるかに大きく、「ここに秋田の人形道祖神が展示されるのか」と興奮しました。

まずは展示される道祖神の中で最大約4メートルの末野のショウキサマを組み立てます。ショウキサマは大きすぎて大型トラックの荷台に入らなかったため、頭部や腕などいくつかのパーツに分けて運びました。

藁人形の道祖神作りで必修科目となるのが、各パーツを縄で繋ぎ合わせる時に使う「イボ結び」。宮原さんは7月に末野の長老から「イボ結び」の猛特訓を受け、家でも動画を見て練習してきました。そしていよいよ、その成果を発揮する時が。宮原さんは慣れた手つきで結んでいきますが、力が足りず中々締まりません。そこで仕上げに私が縄を引っ張り、力を合わせて繋ぎあわせました。

ショウキサマが制作されたのは3カ月以上前。所々、縄が緩んでいる箇所もあり、「縄ない」をできる神野先生が締め直していきます。

こうしてショウキサマがだんだん形になってきました。

毎年行われる末野のショウキサマの作り替えでは、綱を引っ張ってショウキサマを立ち上げる場面が行事のハイライトです。この日は設営スタッフの皆さんが6人がかりでゆっくりと立ち上げました。

ショウキサマの高さは天井すれすれ。その大きさと迫力に圧倒されました。

そして立ち上がってからの頭部の微調整と角を付ける作業は私が担当しました。あまり高い所は得意ではないのですが、末野のリーダーである斉藤繁さんになりきってチャレンジ!下から見ている宮原さんの指示に合わせて、最後の仕上げをしました。

堂々たるショウキサマが立ったところで、3人で記念撮影。ミュージアムに収蔵展示する道祖神の制作をお願いにまわってから約一年。その集大成と言うべき感慨深い瞬間でした。

秋田魁新報・ハラカラ第14号の「秋田の落穂」で書いた斉藤さんから預かった末野の皆さんの集合写真はショウキサマの一部に納めました。その時、まるでショウキサマに魂が宿ったような気がしました。

翌、25日は御返事のカシマサマ、山田のジンジョサマなどの設営をお手伝い。展示にあたって、私たちのアイデアもいくつか採用していただきました。これまで撮影してきた行事の動画も壁面に映し出され、展示空間が徐々に出来上がっていきます。

神野先生には若い頃、夢中になって人形道祖神を取材された時のお話を聞かせていただきました。「ここにある人形を見ればすぐ『あの集落の神様だ』と分かる。40年以上経っても、ほとんど当時の姿のままです。」と神野先生。変わらずに守り続けられてきた人形道祖神の造形力を改めて感じさせられます。

そしてグランドオープン2日前の11月4日、関係者に向けたミュージアムの内覧会が開催され、再び角川武蔵野ミュージアムに伺いました。『妖怪伏魔殿』の展示はまだ準備途中でしたが、人形道祖神ブースは完成済み。入った瞬間、胸が高鳴りました。

小掛のショウキサマ(能代市)と中荒沢のショウキサマ(大仙市)どちらも搬入時は青々とした杉の葉を纏っていましたが、今は全て茶色に。毛皮を纏っているような雰囲気でそれもまた味わいがあります。

内覧会には神野先生の他、民俗学者の赤坂憲雄先生の姿も。道祖神とその行事の動画に見入っていただきました。

手前味噌ながら、本当に見ごたえのある展示になったと自負しております。このような貴重な機会を与えていただいた宮本先生をはじめ角川文化財団の皆様、村の誇りをかけて道祖神を制作していただいた皆様に感謝いたします。そして、神野善治先生と一緒に人形道祖神の展示設営をやらせていただいくというのは、まるで夢のような経験でした。神野先生、本当にありがとうございました。

目下、話題の角川武蔵野ミュージアム。さまざまなメディアで紹介されております。

ウェブ版美術手帖ではミュージアムでの展示を詳しく紹介。人形道祖神の展示風景も。

好書好日(朝日新聞)Tokyo Art Beatでもカッコいい道祖神の雄姿がご覧いただけます。

秋田魁新報電子版は人形道祖神に焦点を当てて紹介(一部会員のみ)記事の中で荒俣宏先生が「妖怪とカシマサマ」について語られております。

necco noteでは内覧会の様子をデザイナーの田口冬菜さんがレポート。私たちも登場します。

新型コロナの第三波が押し寄せる中、なかなかお出掛けするのは難しくなってきましたが、角川武蔵野ミュージアムがある東所沢は秋田と変わらないくらい閑静で、館内も密にならずにご覧なれると思います。機会があれば、是非、足をお運びください。

『荒俣宏の妖怪伏魔殿2020 』は2021年2月28日まで角川武蔵野ミュージアム1Fグランドギャラリーにて開催中(詳細はこちら

Writerこの記事を書いた人

投稿者:小松 和彦
郷土史研究 小松 和彦
工芸ギャラリー・小松クラフトスペース店主 『秋田県の遊廓跡を歩く』(カストリ出版)、 『新あきたよもやま』(秋田魁新聞デジタル版) などを執筆。 http://www.komatsucraft.com/ Twitter @Komatsucraft