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ハラカラ「ミッシングリンクにショウキサマを追え!」

投稿者:宮原 葉月 投稿者:宮原 葉月 宮原 葉月

 22日付の秋田魁新報「ハラカラ」に寄稿しました。タイトルは「ミッシングリンクにショウキサマを追え!」。現在秋田県立近代美術館で開催中の「あわいをたどる旅」に出品した「幻の泥塑天子(どうそてんし)を探して」がテーマです。ブログにてリサーチの初動を詳しくご紹介いたします。
 ちなみにタイトルの「ミッシングリンク~missing link」とは、「系列を完成するのに欠けているもの」(引用:研究社 新英和中辞典より)という意味です。

「ハラカラ」関連記事
<1>「秋田住みます『人形道祖神女子』 編 」(2019年10月掲載)
<2>「第1回末野鹿島人形コンテスト編」(2020年1月掲載)
<3>「ニンギョサマが守る松峰編」(2020年4月掲載)
<4>「保呂羽山麓のカシマサマ編」(2020年7月掲載)
<5>「おらほの神様が角川武蔵野ミュージアムへ編」(2020年10月掲載)

 昨年の3月、小松さんから「宮原さん、今まで人形道祖神がないと思われていた阿仁地域にどうやら道祖神があったみたい。調査しに行きましょう!」とお誘いがありました。「濃い調査になりそう・・・!」とワクワクしましたが、たまたまお仕事の〆切が重なっていた為泣く泣く断念し、「落ち着いたら是非!」と調査を延期しました。すると、新型コロナ感染拡大に伴い緊急事態宣言が発令され、取材を当面中止することに。
 取材に行きたい気持ちを抑えながらステイホームをしていた小松さんは、阿仁地域の道祖神に関する貴重な資料(『阿仁鉱山跡探訪』戸嶋チエ著・自費出版、1985)を発見しました。時期を同じくして秋田県立博物館の展示を観に行った私たちは、ミュージアムショップで「勝平得之(※1)さんの装丁がかわいい」と手にとった書籍『東北の民俗』(仙台鉄道局編纂、1937)に「浦田のショウキサン(阿仁地域)」の記述を発見しました。小松さんの頭の中で、点と点が繋がっていったようです。
 ちなみに当初調べてみたかった道祖神は資料と異なる道祖神(※2)でした。
※1 秋田が誇る版画家
※2 ユニークな経緯で生まれた道祖神であることがわかりました。どこかでご紹介できればと思います。

「あわいをたどる旅」展示風景

 緊急事態宣言が5月に解除され、道祖神取材で県内を駆け巡っていた7月、秋田県立近代美術館(横手市)で11月から始まる「あわいをたどる旅」への出展作品の打ち合わせが行われました。同展示のコーディネーターを務められるNPO法人「アーツセンターあきた」の岩根裕子さんと高橋ともみさんから「何を展示したいですか?」とヒヤリングをしていただきました。
 当初は何もアイデアが浮かびませんでした。打ち合わせは私たちへのインタビューも兼ねていたので、今までの活動を振り返りながら2人で話をしていきました。すると高橋さんから「宮原さんは(小松さんに揉まれて)だいぶリサーチ力がついたのでは?」という質問が。
 「今まで『ただ好きでやっていた』取材が、『リサーチ力』というなにやら頼もしい存在に思えてきた」「リサーチはとても楽しい」「この力が認められるならば、他の方が楽しんでいただけることに使ってみたい」という思いが頭の中で増幅していき、気づけば、顔を真っ赤にして「展示ではリサーチしたものを時系列に並べて、仮説から結果までの流れを作りたい」と口にしていました。
 しかし言い出したものの自信がなく、ドキドキしながら周囲をチラチラと見渡しました。すると、お2人が「面白いと思う。私たちもANPのリサーチをみてみたい」と言ってくださいました。
※インタビューの様子は「ARTS & ROUTES展インタビュー」記事にてご覧いただけます

 こうして、展示の方向が「ルポルタージュ形式」に決まりました。小松さんも「菅江真澄の紀行文のオマージュになりますね!」とにっこり。
さて、何をリサーチする?
偶然にも2人の脳裏に、先にご紹介した「・・・阿仁!」のことが浮かびました。

阿仁の小様地区を調査。これから山に登ります。祠に案内してくれた小林さんに「これ、クマの足跡だよ。新しいゾ。」と教えてもらいました

 打ち合わせから2か月後の9月、私たちは阿仁地域へリサーチの旅に出掛けました。当初は果たして道祖神の痕跡は見つかるのか?と全くわからない状態でスタートしましたが、阿仁合コミューンを主催する長谷川拓郎さん、郷土歴史研究家の戸嶋喬さん、小様地区の小林博さん、そして宮野悦朗さんなど多くの方々に助けられ、時に絶望を感じたり、時に歓喜の雄叫びをあげたり、走行不可能な山道に遭遇し引き返したり、ジェットコースターのようなリサーチ旅となりました。とても面白かったので、このときの様子は別途ブログにてご紹介します。

 ハラカラ記事の下段、「秋田の落穂」コーナーの今月のテーマは「道祖神アート」について。展示の作り方や思いを2人で語りました。ある男性の似顔絵が散りばめられていますが、その理由は果たして・・・?

 作品では阿仁地域のリサーチに特化する方向もありましたが、もうひとつ伝えたいことがありました。ハラカラ記事内「ミッシングリンク」の終点である「小掛のショウキサマ」の取材で感銘を受けた小玉忠さんのことです。ショウキサマを守り続けている長老の小玉さんからお聞きした言葉は、人形道祖神を超えて、今を生き抜くために大切なものだと感銘を受けました。小玉さんの言葉をどうしても伝えたかったのです。

 リサーチ中に感じた疑問「一方の道祖神はまだ作り続けられていて(=小掛のショウキサマ)、もう一方の道祖神は頭部だけが祠に収められていて(=阿仁地域:地図上の赤い部分)、この違いは一体何だろう?」に対する答えが、小玉さんの言葉の中にあると考えました。そこで、阿仁地域のリサーチに「言葉のライン」を重ねることに。
 阿仁地域を北上しリサーチしていくラインと、小玉さんの言葉を追うラインとが、作品の最後に重なる構成にしました。

 自分で取材したノートを何度も見返しながらの初めてのシナリオ書き。そして絵画制作も待ち構えていました。不安のあまり何度も心が折れそうになりましたが、小松さんの調査プランやユニークな仮説の立証、リサーチの面白さを多くの方に楽しみながら知っていただきたい!という思いがあったり、地理などわからない箇所があれば丁寧に教えてもらい、さらには秘蔵ネタを出してもらうなど小松さんの強力なバックアップのおかげで、なんとか書き上げることができました。

 また、展示を一緒に作り上げてくださったデザイナーの越後谷洋徳さんを始めとして、コーディネートを担当してくださったアーツセンターあきたの岩根裕子さん、そしてシナリオのアドバイスや、展示のパネルや出力の制作部分、また搬入も共に行ってくださった高橋ともみさんに厚く御礼申し上げます。

 最後に、この度も展示をオマージュした素敵な紙面デザインを担当してくださった宮腰直美さん、編集のユカリロの三谷葵さんと高橋希さん、ありがとうございました!

 是非展示もお楽しみいただけますと幸いです。

「ARTS & ROUTES
あわいをたどる旅」

会期/2020年11月28日(土)~2021年3月7日(日)
(休館日:12月29〜31日及び、1月13〜22日)
会場/秋田県立近代美術館
観覧料/一般1,000円(800円)/高校生・大学生500円(400円)
※中学生以下無料、( )内は20名以上の団体および前売の料金、学生料金は学生証提示、障害者手帳提示の方は半額(介添1名半額)
主催/ARTS & ROUTES 展実行委員会(秋田県立近代美術館・AAB秋田朝日放送)・秋田公立美術大学

Writerこの記事を書いた人

投稿者:宮原 葉月
イラストレーター 宮原 葉月
広告・書籍・雑誌でイラストを描く。 「LOWELL Things」(ABAHOUSE)とのコラボバッグ、 シリーズ累計49万部「服を買うなら捨てなさい」(宝島社) 装画等を担当。 http://hacco.hacca.jp Twitter @hatsukimiyahara