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神秘の来訪神・小滝のアマノハギ

投稿者:小松 和彦 投稿者:小松 和彦 小松 和彦

秋田人形道祖神プロジェクトの「冬の重要研究テーマ」である、にかほ市の小正月行事。この地域では 『村を守る不思議な神様・永久保存版』(KADOKAWA)の「ナマハゲと道祖神編」 でご紹介したように、小正月の道祖神(塞ノ神)の祭りにナマハゲに類似した来訪神「アマノハギ」が登場する事例もあります。

石名坂のアマノハギ(2020年撮影)

アマノハギが行われているのは、石名坂、小滝の2集落。一昨年は石名坂へ伺ったので、今年は小滝を取材させていただくことに。ありがたいことに石名坂の取材でお世話になったSさんが小滝のアマノハギの保存会の方を紹介してくれました。開催日はまさに小正月の1月15日。いざ、にかほ市へ♪

午後5時、小滝の集会所へお邪魔すると、ちょうどアマノハギの準備中でした。アマノハギ役は2名。他に付き添い役や車の運転係など5名。参加するのは20~40代の青年たちです。目下コロナ禍なので、アマノハギ様もお面の他にマスクを着用。

アマノハギが被るお面は毎年5月と8月に開催される「鳥海山小滝番楽」の際に使用される鬼の面。その前には尾頭付きのお膳が供えられております。小滝集落は古くから鳥海山信仰の拠点の一つであった金峰神社(国指定史跡)の門前町。ここではアマノハギと番楽の他、チョウクライロ舞、雅楽、獅子舞といった伝統芸能が継承されています(詳しくは保存会のウェブサイトにて)年季の入ったお面に「修験道の聖地」の歴史を感じさせられます。

アマノハギが持っている布袋は「悪い子供を入れる」ためのもの

午後5時半、いよいよアマノハギ一行が会館を出発。なんといきなり車に乗り込みました。聞くと「最近は『うちにも来てくれ』というリクエストがあって、近隣の集落へ出張するんですよ」とのこと。最初に訪れたのは、ちょうどその頃「鳥追い」が行われている横岡集落(2020年の取材はこちら)。その後、象潟にも行き、5軒ほど周ってから小滝に戻ってきました。

「うぉ~、金峰神社からアマノハギ来たぞ~!」、「ゆうごと聞かねば『ぽっぽら杉』さ連れで行くぞ~!」、小さな子供は泣き叫びます。ある家では親に隠れて泣いている子供の手におもちゃの水鉄砲が握られていたことも(笑)
ちなみに『ぽっぽら杉』とは金峰神社の境内にあるご神木らしく、アマノハギはそこから降りてくるとされているそう。横岡や大森の鳥追いで子供たちが餅を貰いに歩く際、「アマハゲ(ナマハゲ)のぽっぽらぽう」と唄っていたのは、このことのようです。

全部で15軒ほど周った後、最後は番楽保存会会長の吉川栄一さんのお宅へ。そこで2匹のアマノハギは歓待を受けます。吉川会長によると、この行事は元々小学生がやっており、いつしか大人もやるようになった。しかし、5、60年前にやめてしまい、しばらく中断していましたが、青年会が中心となって復活したのだそう。
「こうして若い人が頑張ってくれるから続けてこれました」
アマハゲ部会部長の吉川紘樹さん(昭和53年生まれ)は今まで10回以上アマノハギをやってきたベテランです。
「子供の頃はお年玉をもらうと(アマノハギの)カウントダウンが始まって憂鬱な日が続いた。伝統を守り継いでいきたいですね」

巡行を終えて「ぽっぽら杉」へと帰っていくアマノハギ

「かつて来訪神は子供の行事だった」という点では、これまで取材した石名坂や金浦の赤石と共通する小滝のアマノハギ。塞ノ神を祀る場面は見られませんでしたが、さすがは金峰神社のお膝元!神秘的な来訪神行事でした。番楽保存会の皆さんの年末年始は「12月中は獅子舞の練習、新年からは連日の祭典」に追われているとのこと。それでも、若い人たちが 「せっかく伝わっているものなので、残さなくては」と率先して参加されている姿に感銘を受けました。道祖神に限らず、鳥海山麓の民間信仰をより深く調べてみたくなりました。

『村を守る不思議な神様・永久保存版』 (KADOKAWA) が刊行されてから、早4カ月が経ちました。新聞や雑誌の書評でも取り上げていただき、 読書メーターの書評もありがたく拝読しております。 詳しくは後日改めてブログにて。

Writerこの記事を書いた人

投稿者:小松 和彦
郷土史研究 小松 和彦
工芸ギャラリー・小松クラフトスペース店主 『秋田県の遊廓跡を歩く』(カストリ出版)、 『新あきたよもやま』(秋田魁新聞デジタル版) などを執筆。 http://www.komatsucraft.com/ Twitter @Komatsucraft