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<番外編>現代アートを介して、秋田の風景をみる in 京都

投稿者:宮原 葉月 投稿者:宮原 葉月 宮原 葉月

 今回は番外編のブログです。昨年12月に京都で開催された現代アート作品を宮原が体験し、なぜか京都のド真ん中で秋田の風景を感じたエピソードをご紹介します。アートを楽しんだ一個人の話として、お楽しみいただけますと幸いです。

※現在展示は終了しています

 今回体験した現代アート作品は、ANPが昨年大変お世話になった、京都市立芸術大学様主催のアートプロジェクト「霧の町のポリフォニー」による展示「大学移転プレ事業 実験展示 EREHWON ~いまここにありどこにもない場所」です。

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 京都市立芸術大学は来年の2023年、西京区大枝沓掛町から京都駅東部・崇仁地区へ全面移転します。それに伴い、現在周辺では大規模な工事が進行中。独自の文化が育まれた「崇仁地区」がその姿を変えていく中、今回の展示が開催されました。
 昨年講演会を企画してくださったプログラムディレクターの高橋 悟さんから展示のお知らせが届きましたので、その一部をご紹介いたします。

「(今度の展示は)大規模な建設工事を背景した河原町塩小路下ル広場に、自作の無響室を設置する実験的な内容です」

「京芸の移転を前に、150台ほどのトラックが出入りし、街の風景は日々驚くほど変容を続けています。工事が完了してしまう前に、その土台の記憶を留める実験となればと思っています」 

 「刻々と変容していく街の様子を記録する」という考えに、秋田の人形道祖神取材に重なる要素を感じ、「是非とも見に行かねば!」と思いました。

 12月某日、京都駅から会場を目指して歩いていくと、展示の案内板を発見。矢印に向かって足を進めていくと・・・

 「無響室」がありました!
 広場にポツンと設置されています。
 付近にある河原町通(※)、新幹線やJRの線路から、車や電車の音が絶え間なく聞こえてきます。
※広場のすぐ下はアンダーパスがあり、沢山の車が走っています

受付。無響室を背に、五条方面を向いて撮影

 会場に到着すると、高橋さんご本人がいらっしゃいました。会場は無人かと思っていたので、冷えた体が温まるものをお持ちすればよかった、と思いました。(京都は大阪より気温が下がるため、なかなかの寒さです)
 受付をしてくださった男性の方に作品「EREHWON」の楽しみ方を教えてもらいました。

 コンテナの内部は防音構造になっていて、周囲の音をシャットアウトします。コンテナ内に入るとドアが閉められ、暗闇の中を5分間、一人で過ごします。5分が経過すると外からドアを開けてもらい、体験が終了する流れ。事前にブザーが渡されるので、それを鳴らせば途中で出ることも可能。

コンテナ内
ガッチャン!とドアが完全に閉じられます

 閉所恐怖症である私は、「1、2分でブザーを鳴らすと思うので、絶対に助けてくださいね」と男性の方に泣きつきました。「大丈夫ですよ」とやさしくおっしゃっていただきます。
 そして、(私目線で)無情にもドアが閉められていきます。
 ああ、真っ暗の中へ・・・

 最初の30秒は、暗闇に慣れるための時間。耳を澄ますと、かすかに遠くで電車が通る音が聞こえてきます。

 暗闇に慣れてくると、今度は秋田で見てきた風景が眼前に広がり始めました。遠くに広がる青い空、風で揺れる田んぼの水面。道祖神を夢中で追いかけていた日々。

昨年6月の取材時の風景。まさにこのときの風景が鮮明によみがえってきました

 また、秋田県湯沢市岩崎地区の風景も思い出されてきました。雪をザクザク踏み分ける足元の感覚や、雪が積もると暖かいことを知った当時のこと・・・

前を歩く長老の菊地さんと小松さん

 暗闇の中で秋田の風景がこれほど鮮明に浮かんでくるなんて、と正直驚きました。大阪での暮らしは、周囲が人や情報で溢れているので、秋田の記憶がどうしても遠のいてしまうのです。

 いつか秋田の風景を取り戻せるのだろうか、とふと思いました。

 5分間はあっという間に過ぎていきました。ドアが開けられ、外に出ます。すると、一気に日常の世界へ戻りました。あの無響室は、まるで秋田へワープする入口のよう。
 気持ちがだいぶ高揚し、心の中で起きたことを整理するのに少し時間がかかりました。

 現在の広場は、囲いがなされて工事が始まり立ち入ることができません。
 時代に合わせて変容していく崇仁地区に、私は秋田の心象風景を重ねましたが、体験した人の分だけ感じ方が生まれたと思うと感慨深くなります。

 大学の新しいキャンパスが完成すると、今の風景はやがて記憶から薄れていくのだろう、それ以前の歴史や文化も、思い出すことはより難しくなるだろうと感じました。だからこそ、高橋さん達がこうして活動される意義を、改めて考えます。

 秋田の人形道祖神文化も、少子高齢化などによって刻々と変容しています。「数年後の継続は、もしかすると難しいかもしれない」といつもドキドキしながら取材させていただいています。変わりゆく道祖神文化を、今後もどのように記録し、表現し、伝えていくべきだろうか、この度のアート体験を通じて、改めて捉え直したいと思いました。

Writerこの記事を書いた人

投稿者:宮原 葉月
イラストレーター 宮原 葉月
広告・書籍・雑誌でイラストを描く。 「LOWELL Things」(ABAHOUSE)とのコラボバッグ、 シリーズ累計49万部「服を買うなら捨てなさい」(宝島社) 装画等を担当。 http://hacco.hacca.jp Twitter @hatsukimiyahara