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シンボルが家にやってくる!大森の小正月行事

投稿者:小松 和彦 投稿者:小松 和彦 小松 和彦

雪に閉ざされる冬の間、秋田では人形道祖神の行事はほとんどありません。しかし、全国的にみると道祖神の祭りが多いのは1月~2月の小正月。わが秋田県には「人形ではない」道祖神とナマハゲに代表される来訪神とがブレンドされた摩訶不思議な行事を小正月に行う地域があります。それがにかほ市上郷地区です。 私たち秋田人形道祖神プロジェクトにとっては「冬季の最重要テーマ」、一昨年から毎年調査しております。

にかほ市のサイノカミ行事を取材しました(1)(2020年)

新刊のご紹介 その12「ナマハゲと道祖神」編

大森のサイノカミ。網に覆われているものが鳥追いで村を巡行する「ご神体」、切紙のついた木の棒が「嫁つつき」に使われる初嫁棒。

上郷地区でまだ取材をしていなかったのが大森集落。こちらでは集落のはずれに男根型の道祖神「サイノカミ(塞ノ神、サエノカミ)」が複数体祀られています。毎年1月15日に近い日曜日、サイノカミを祀った藁小屋を建てて焼き、午後から子供たちがサイノカミを持って村を練り歩く「鳥追い」が行われます。その際、お嫁に来たばかりの女性の腰を「初嫁棒」という木の棒でたたく素振りをして子宝祈願する「嫁つつき」を行うことで知られています(詳しくはakitafesさんのサイト「秋田の小さな祭りたち」にて)。問い合わせてみたところ「今年はうちの集落にお嫁さんが来なかったから、嫁つつきはないですよ」と言われましたが、小屋焼きと鳥追いは1月9日に行われるとのことで、取材させていただく運びとなりました。

村はずれの一画に建てられたサイノカミの藁小屋は高さ2.2メートルほど。木製の男根型のサイノカミがゴンギョウ(五芒星)の中から突き出ています。その周りをヒノキの葉で装飾するのも大森の藁小屋の特徴の一つ。小屋とサイノカミはどちらも1月4日に作られたそうです。

小屋の裏側にはもう一体サイノカミが突き出ています。こちらは普段、祠に祀られているご神体。2020年にもこちらの藁小屋を見に来たことがありましたが、その時はサイノカミ(ご神体の方)が突き出している方向が違っていました。自治会長の齋藤一弘さんによると、ご神体はその年の恵方を向いているとのこと。

午前10時、大森の皆さんが集まってきてお正月飾りなどを小屋に集めます。子供たち(小学生2名、中学生2名)が並び、一人が藁小屋から取り出されたサイノカミのご神体、二人が初嫁棒を持って「塞ノ神の唄」を唄い始めると、齋藤さんがガスバーナーで小屋に点火。バチバチという音を立てて勢いよく燃え上がりました。この年に作られた方のサイノカミは小屋と一緒に燃やされます。

午前の部は藁小屋が燃え落ちたところで終了。齋藤さんから昔の様子などを聞き取りした後、ひとまず解散。続く「鳥追い」は午後1時スタートです。

お昼過ぎ、4名の子供たちが再び藁小屋の建っていた場所に集合。今度は「鳥追いの唄」を唄いながら、練り歩きます。付き添いのお父さんたちに「もっと大きい声で唄って!」と発破をかけられながら、雪道を歩いていきます。

先頭の子供が持っているのはサイノカミのご神体(長さ約45センチ)。「鳥追い」はこのサイノカミと子供たちが各家々を周る行事でもあるのです。「嫁つつき」の時は、このシンボルを女性の前に投げ出してから、杖で突くのだそう。

集落の端から一軒ずつ子供たちが訪問。玄関にサイノカミを置き、ゴロゴロと3回まわすと、家の人が拝礼して、子供たちに餅やお菓子を渡します。その時に子供たちが唄う「餅もらいの唄」の歌詞は「ナマハゲのぽっぽらぽう てんくのそのにぎにぎ 餅くれ餅くれ」。『村を守る不思議な神様2』のあとがきにも書いた能代市荷八田のサイノカミ行事(現在は中止)で集落の長老が「(子供がやっていたサイノカミ行事を)大人がやるとナマハゲになるべ」という言葉を思い出しました。

(荷八田のサイノカミについては秋田魁新報の連載コラムでも紹介しました→新あきたよもやま~サイノカミとナゴメハギ②「大人がやるとナマハゲになる」

最後は子供たちがサイノカミの祠の前で拝礼して終了。「嫁つつき」は見られませんでしたが、悪疫退散、子孫繁栄のシンボルが来訪神のように家々にやってくる姿は強烈に目に焼き付きました。

上郷地区の小正月行事は同時多発的に行われます。『村を守る不思議な神様・永久保存版』(KADOKAWA)の「ナマハゲと道祖神」の章で紹介させていただいた石名坂では、ちょうどサイノカミの藁小屋を作っている真っ最中。一昨年、昨年と取材させていただいているので、集落の皆さまとは顔なじみになりました。「本に出てくる俺の顔のイラストが似ていると評判だよ」と斎藤稔さん。今年は雪が多く「鳥海山に初冠雪した雪が一度も解けない冬はめずらしい」とのこと。

完成した藁小屋がこちら。ゴンギョウ(五芒星)から突き出たサイノカミがカッコいい!この小屋は翌10日の昼過ぎに燃やされ、その夜、鳥海山から上郷版ナマハゲ「アマノハギ」が村に降りてきます(詳しくはこちら)。

上郷地区の小正月行事は本当に奥が深い。『永久保存版』 で書いた「ナマハゲと道祖神」は序説で、これからもっと掘り下げていかなければいけないことが沢山あると感じた取材でした。

宮城県石巻市での展示「村を守る不思議な神様・石巻展」も残すところ1月15、16日の2日間のみとなりました!お近くにお越しの際は是非お立ち寄りください。

Writerこの記事を書いた人

投稿者:小松 和彦
郷土史研究 小松 和彦
工芸ギャラリー・小松クラフトスペース店主 『秋田県の遊廓跡を歩く』(カストリ出版)、 『新あきたよもやま』(秋田魁新聞デジタル版) などを執筆。 http://www.komatsucraft.com/ Twitter @Komatsucraft