Blog

【動画付き】2023年人形祭りの旅~長面袋、新姥沢

投稿者:小松 和彦 投稿者:小松 和彦 小松 和彦

新・秋田の行事in大館』から早一カ月。年の瀬が迫る中、来年の秋田人形道祖神プロジェクトの活動についても話し合っているところですが、年内中にやっておかなければならないことがありました。それは、夏から秋にかけて取材した人形道祖神の行事をブログで紹介することです。

今年は『新・秋田の行事』の準備の合間にいくつかの行事に伺いました。その中でも特に印象に残った大館市内の二つの「人形祭り」をご紹介します。

長面袋の人形祭り

大館市釈迦内にある長面袋(ながおもてぶくろ、戸数38軒)には集落の3カ所の入口にほぼ等身大のニンギョウサマが一体ずつ祀られています(男神2体、女神1体)。かつては春と秋に人形の作り替えを伴う「人形祭り」が行われていましたが、現在は人が集まりやすいお盆過ぎの日曜日に開催されています。今年は8月20日でした。

午前8時から集会所にあるニンギョウサマ制作用の作業場で人形作りがスタート。ワラで人形をパーツを作っていきます。中でもベテランは昭和2年の中村キナさん。「分からないことをみんな聞いてくるよ」とおっしゃる通り、縄ないのやり方などを指導しながら、和気あいあいと作業されていました。

完成したニンギョウサマの肩に漏斗を付けて、体にホースを挿管。股の下にはペットボトルが。これは何の意味があるか、すぐ分かったあなたは立派な「人形祭り」マニアです。神様がお飲みになった酒を集めて、直会でいただくための装置「リアル御神酒製造システム」(と最近勝手に命名しました)。『村を守る不思議な神様・永久保存版』(KADOKAWA)の第3章で紹介した「粕田の人形祭り」にも登場します。

夕方からは祭りのクライマックスとなる巡行が始まります。実はニンギョウサマが集落を周るのはコロナ過後初となる4年ぶり。カスタマイズされた長さ約7・5メートルの台車にはニンギョウサマの他、太鼓を叩く8名の子供たちと、ニンギョウサマにお神酒を飲ませる青年が2名乗ります。これは他の人形道祖神の行事にはない設え。映画『マッドマックス・地獄のデスロード』に登場するカスタムカーを思い出しました。

午後6時、いよいよご一行が出発。迫力満点の巡行をどうぞ動画でご覧ください。

家々からはキリタンポ3本とお酒をニンギョウサマに奉納します。お酒はもちろん、漏斗から神様の体内を通ってペットボトルに。

長面袋人形祭り保存会会長の小松元雄さんによると15年ほど前までは大人だけが参加するお祭りだったそう。子供も一緒に参加できるようにしたいということで、現在のスタイルになったそうです。お囃子の練習は8月の一週目から夜に集まってやっていたとのこと。長面袋の皆さんの祭りに対する並々ならぬ熱意が伝わってきます。

ニンギョウサマとお囃子の子供たちを乗せた紅白のカスタムカーは、日暮れと共にどこか近未来的なムードに。これぞ人形道祖神のサイバーパンク!進化した人形祭りに胸が熱くなりました。

集落を一巡したところで、3カ所の入口にそれぞれのニンギョウサマをお納めして、2時間ほどで巡行は終了。お祭りの後は集会所で直会です。

各家々で奉納したきりたんぽを、ニンギョウサマがお飲みになった御神酒を加えて煮たスープでいただきます。私もご相伴させていただきました。人形道祖神ワンダーランド・大館名物「神と人とを繋ぐ」きりたんぽはここでも格別でした。

新姥沢の秋人形祭り

大館市花岡の新姥沢(戸数50軒)にある岐美二柱稲荷神社の境内には、全身に杉の葉を纏った男女一対のニンギョウサマが祀られています。高さは約2メートル。能代市の小掛のショウキサマにどこか似ている道祖神ですが、小掛が両腕をだらりと下げているのに対して、新姥沢は「バンザイ」のように大きく手を上げているのが特徴。地名に「新」が付く集落の神様でありながら、どこか古代の神様の雰囲気を漂わせるプリミティヴなお姿が魅力です。

この集落は元々、現在の花岡の中心地にあった「姥沢」集落が、戦時中の鉱山開発によって集団移転させられてできたそう。その時にニンギョウサマも一緒に移ってこられたようです。ニンギョウサマの行事は毎年秋に行われることから、「秋人形祭り」と言われています。

今年の祭りは10月22日。以前は午前中に人形の作り替え、午後から集落を巡行したそうですが、近年は数週間前から有志が集まって少しずつ作り替えをしているとのこと。ニンギョウサマが完成したのは祭りの前日。そして当日は午後2時から巡行がスタートです。

集落の皆さんが集まり、衣替えしたばかりのニンギョウサマをリヤカーに乗せて、まずは出発前の拝礼から。ここでも「ROSS(リアル御神酒製造システム)」が人形に取り付けられています。

一度見たら忘れられないバンザイカップル・新姥沢のニンギョウサマが集落を周る様子を動画でご覧ください。

ニンギョウサマがやってくると、沿道の家々から住民の方々が出てきて参拝します。昨年は不幸があって祭りを開催しなかったため、新姥沢の皆さんはこの日を待っていたようです。1時間ほどで巡行は終了。その後は、集会所で「きりたんぽ会」が開催されました。

「昔は虫追いや鹿島流しもやっていたけどやめてしまった。最後まで残ったのが秋人形祭りです」と町内会長の山本弘視さん。以前は青年会でやっていたこの行事も、高齢化が進んだ今、山本さんをはじめ町内の有志によって続けられています。ニンギョウサマはいつの時代も、村の人々と共に生きる守護神です。

Writerこの記事を書いた人

投稿者:小松 和彦
郷土史研究 小松 和彦
工芸ギャラリー・小松クラフトスペース店主 『秋田県の遊廓跡を歩く』(カストリ出版)、 『新あきたよもやま』(秋田魁新聞デジタル版) などを執筆。 http://www.komatsucraft.com/ Twitter @Komatsucraft