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【動画付き】おらほのカシマをダブル取材!楢山、太平の鹿島行事(下)

投稿者:小松 和彦 投稿者:小松 和彦 小松 和彦

からの続き)7月2日午後1時、いよいよ4年ぶりとなる楢山御船町の鹿嶋祭りがスタートしました。「オメンサマ」が各家々を訪れて悪魔ばらいをしていく後ろから、軽トラに乗った船がゆっくりと続きます。

まずはお祭りの様子を動画でどうぞ!

船をよく見ると、なんとカシマニンギョウの姿がない。聞けば、今年は準備が間に合わず用意できなかったとのこと。こちらの祭りの主役はやはりオメンサマなのかもしれません。

リズミカルなお囃子が素晴らしい!横笛を担当されている齋藤昭二さんは、なんと川尻毘沙門町からの助っ人参加。聞けば、この二つの町内は以前から交流があり、御船町から毘沙門町に助っ人に来ることもあったとか。御船町のオメンサマと毘沙門の鬼に「夫婦説」がある背景にはこうした繋がりがあるようです(詳しくは前編で)。斎藤さんは毘沙門町の鹿嶋祭りと竿燈、そして御船町の鹿嶋祭りで横笛を担当していますが、「全部メロディが違う」とのこと。2町内の伝統行事には欠かせないキーパーソンです。

町内を一周し、1時間半ほどで祭りは終了。無事、神社にお戻りになったオメンサマ。その存在感に圧倒された鹿島行事でした。

家に戻ってから、すぐに太平川原の鹿嶋流しに車で駆け付けました。こちらの行事は現在8軒の「鹿嶋講中」によって執り行われており、当番の方のお宅に講中の皆さんが集まっていました。

川原のカシマニンギョウは藁で作るタイプ。今番大きい人形は「親カシマ」と呼ばれ、当番の方が作るとか。まさに「鬼滅のカシマ」です。

川原の鹿嶋講中には明治5年からの人名帳が残されています。太平地区では他にもいくつかの集落で鹿島流しが伝えられていたようですが、現在はほとんど行われていません。そんな中、この集落では毎年続けられている理由について、講中長である森合久男さんに尋ねると、「ここは太平川が氾濫すると一番被害が大きい場所。水害にあわないように、という願いがあるのではないか」とのこと。

仙北市田沢湖町の玉川地区では、かつて大雨による玉川の氾濫から田畑を守るために藁のカシマニンギョウを作って川に流したそう(『田沢湖町玉川地区緊急民俗調査報告書』、田沢湖町教育委員会、1980年)。これまで無病息災のほか、豊作、豊漁などが祈願される鹿島流しを取材してきましたが、「水害退散」の意味を持つ事例があることを改めて知りました。川や海など、水辺が近い集落で行われるこの行事ならでは、です。

午後5時、いよいよカシマニンギョウと藁船が、軽トラの荷台に乗って出発です。子供たちが太鼓をたたきながら、ゆっくりと集落を巡行します。

約1時間巡行した後、太平川の川岸へ。船の姿はまるで龍神のようです。

太平川原の鹿島流しは同じ秋田市内でも新屋川尻、御船町とは違って、藁で作られた人形と蛇頭の藁船という、まさにこの日行われていた末野の鹿島流しを彷彿とさせる原初的な行事でした。御船町が都市のカシマなら川原は農村のカシマ。こんなバラエティ豊かな「おらほのカシマ」がわが町に残っていることを誇りに思いました。

この取材から2週間後の7月15日、秋田県中央部は未曽有の豪雨に襲われました。私の家はギリギリ浸水を免れましたが、昨年まで取材で使っていた車が水没したり、水害の影響は夏いっぱいまで続きました。

御船町と太平川原では大変な浸水被害に見舞われたそうです。川原の取材でお世話になったYUNAさんによると、とにかくみんなが協力して必死に乗り越えたそう。心からお見舞い申し上げると共に、「おらほカシマ」が続いてくれることを願うばかりです。

ここからはANP最新情報を!

①『新・秋田の行事in大館』着々と準備中!

前回のブログでもお伝えましたが、11月11、12の両日、大館市のニプロハチ公ドーム(通称樹海ドーム)で開催されるイベント『新・秋田の行事』に私たち秋田人形道祖神プロジェクトが登場します!秋田公立美術大学のコレクションに加えて大館市内の3集落に祀られている人形道祖神を、イベントのメインビジュアルも担当した宮原さんの絵画パネルと共に展示。ギャラリートーク、藁編み名人によるワークショップ、さらに「人形祭り」の実演まで盛りだくさんの内容です。秋田の人形道祖神文化を堪能する、またとない機会です。

現在、秋田県公式サイト(美の国秋田ネット)でイベントのチラシをご覧いただけます。

さらに秋田県の関係人口サイト「あきコネ」でもANPのイベントについて紹介されました!

開催まで一カ月を切ったところで、目下準備に追われております。秋田人形道祖神に関するイベントの詳細は順次ブログで発表していきます。

➁あきた民俗懇話会のフォーラムが開催されます

秋田県の民俗学の第一人者・齊藤壽胤先生が主宰する「あきた民俗懇話会」の例会が300回を超えたことを記念したフォーラムが10月28日(土)秋田市にて開催されます。会場では齊藤先生と私が撮影した秋田県内の民間信仰の写真を展示するコーナーもございます。どなたでも参加自由、参加無料。詳しくはこちら

③読売新聞「藁を探して」に掲載されました

読売新聞編集委員の古沢由紀子さんの連載「藁を探して」に秋田県の人形道祖神が取り上げられました。美郷町本堂のショウキサマ、そして私たちの活動についても紹介されています。現在、こちらのページでお読みいただけます。

Writerこの記事を書いた人

投稿者:小松 和彦
郷土史研究 小松 和彦
工芸ギャラリー・小松クラフトスペース店主 『秋田県の遊廓跡を歩く』(カストリ出版)、 『新あきたよもやま』(秋田魁新聞デジタル版) などを執筆。 http://www.komatsucraft.com/ Twitter @Komatsucraft