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帰ってきたメガカシマ・秋田市新屋の鹿嶋祭り(動画付き)

投稿者:小松 和彦 投稿者:小松 和彦 小松 和彦

今年も「カシマの夏」がやってきました!秋田県内各地では春から夏にかけて「鹿島(鹿嶋)祭り」、「鹿島立て」、「鹿島流し(送り)」といった行事が催されますが、その中でも最大の祭典・秋田市新屋地区の「鹿嶋祭り」を6月11日に取材しました。

新屋地区の鎮守・日吉神社にある鹿嶋祭りの看板

鹿島立て(人形道祖神)では横手市田代沢のカシマサマが最大(約4・5メートル)。鹿島流しとしては新屋が最も規模が大きく、毎年約20町内と養護学校がそれぞれ鹿島人形を乗せた船を作り、地区を練り歩きます。これまで県内何十カ所も取材した中で、一番船の数が多かったのは横手市阿気の3艘。合計21艘の新屋は桁外れの巨大フェスです。

そんな秋田を代表する鹿島行事なのに、実はこれまで一度も見たことがありませんでした。その理由は、
①家から近いので(自転車でも行ける距離)いつでも見られると思ったから。
②6月第2日曜という開催日が他の人形道祖神関連の行事(美郷町本堂のショウキサマなど)とかぶるから。
しかし、2020年からコロナ過で中止に。再開されるのを待ち遠しく感じておりました。

新屋愛宕町の面

昨年3月、多賀糸尊さんと新屋の愛宕町にある「もしかすると人形道祖神に被せられていたかもしれない面」を観に行きました(こちら)その際、大変お世話になった小野良治さんから今年はなんと4年ぶりに開催するという情報をいただきました。いよいよ、満を持しての取材。20町内のうち、密着させていただくのはもちろん愛宕町です。

午前7時半、愛宕町の集会所にもなっている地蔵堂に到着すると、その脇には鹿島船が。船の見返りには藁人形ならぬダンボール人形のカシマサマ。頭部にはあのお面が被されております。あれ、前となんか違う…

なんと目が点滅している!

しかも鼻からはピロピロが…(脇に伸びた管から息を吹くと伸びたり縮んだりします)。この大人形は町内の大人たちが制作しますが、祭りの主役は子供たちなので、喜んでもらおうと目に穴をあけて細工したそう。おそらく明治時代以前に作られたと思われる面が細工されるのは忍びない気もしますが、「生きている鹿島信仰」ということで全然アリでしょう!

鹿島人形を持って町内の人々が次々とやってきます。この人形は子供や孫の健やかな成長を祈って奉納するのだそう。現在の開催日になる前は旧暦5月5日の端午の節句に行われていました。

鹿島人形は頭部は陶製で紙の裃を纏います。幟には子供の名前が書かれています。人形や船作りは1週間前からスタート。よく見ると顔の表情がみんな違っていて面白い。

午前9時、いよいよ巡行が始まります。ここでは各町内が日吉神社で順番にお祓いをうけるのですが、愛宕町は10時半から。それまでに表町通りから周囲を一巡して神社に行き、お祓いした後に愛宕町内を周るというコースです。

迫力の巡行を動画でお楽しみください♪

山車を引く子供たちが唄っているのは「ショッ、ショッ、ショ、カシマの送りしょ、ショッ、ショッ、ショ。寺のかげまで送りましょ」という歌詞。昔は寺(天龍寺)の陰の古川(現在の大川端帯状近隣公園)に人形と船を流したことから、こういった唄になったそうです。

歴史のある建物が点在する町を練り歩きます。

10時半に日吉神社に到着。元々は民間信仰の行事なので厳密ではないのですが、山王信仰と鹿島信仰が融合しているのもこの祭りの特徴(昨年取材した男鹿市・北浦の鹿島祭りも実はそうでした)。山王鳥居の下で目からビームを出しているカシマサマが立つ姿には痺れました。

お祓いの後、愛宕町町内会の横山会長が私に「ここからが注目です」。すると、御幣を手にした男性が一升瓶から日本酒を口に含んで…

滅茶苦茶カッコいいんだけど!

横山会長によるとこれが恒例の儀式なのだとか。御幣を舳先に立ててからが「祭り本番」で、霊力を持った船が愛宕町内を周ります。私の脳内にはしばらくザ・グレート・カブキのテーマ曲が鳴り響いていました。

20町内のうち、見返りの人形がカシマサマらしいのは愛宕町だけで、他は「マリオ」、「アンパンマン」、「名探偵コナン」などの人気キャラクターをかたどったもの。中には大谷翔平選手?といったものありました。実は愛宕町も十数年前まではキャラクターの人形を作っていたそうですが、町内にお面があることから「うちはクラシックでいこう」と今のようなスタイルになったのだとか。

鹿島流しと人気キャラクターのつながりは江戸時代にまで遡ります。往時の記録を見ると、鹿島船には鹿島人形の他に、源義経や弁慶といった武者人形が飾られており、それについては『村を守る不思議な神様2』の松峰のニンギョサマの章でも少し紹介しました。町内の大人たちが共同で子供たちを喜ばせるためにスーパーヒーローの人形を作るというのは、この行事の習わしであると解釈できるわけです(そう言われると大谷選手が源義経に見えてきませんか?)

愛宕町内を一周し、午前11時に巡行は終了。子供たちにお菓子が振舞われ、一同解散。しかし、ここから大人たちには重要な任務があるのです。

鹿島人形を小さな船に移し替えて、町の外へ送り出す儀式が行われます。これは町内でもごく一部の人しか参加できないのですが、特別に見学が許されました(そうゆう事情なので詳しくは書きません)。人形を見送った後、参加者はその場でお神酒を酌み交わします。まさに「神送り」という言葉にふさわしい、感動的なエンディングでした。

そして集会所に戻ってからは直会です。午後から別の取材があったのでゆっくりはできませんでしたが、私も少し参加させていただきました。「4年ぶりだから忘れていることが多かったけど、何とか無事できて良かったです」と横山会長。「新屋衆」の皆さんの熱い気持ちが伝わる、素晴らしいお祭りでした。

下鍋倉の鹿嶋送り(横手市)
樽見内の鹿島祭り(横手市)

鹿島行事が一番多く分布しているのは秋田県南部、雄物川中流域の平鹿平野。個性的な祭りが各地に伝えられ、秋田の夏の風物詩となっています。雄物川の河口近くに位置する新屋の鹿嶋祭りは、流域一帯に分布するこの行事の「集大成」なのかもしれません。現代的な要素がたくさんありながら、様々な地域の鹿島行事が重なって見えてくるような「メガカシマ」でした。

Writerこの記事を書いた人

投稿者:小松 和彦
郷土史研究 小松 和彦
工芸ギャラリー・小松クラフトスペース店主 『秋田県の遊廓跡を歩く』(カストリ出版)、 『新あきたよもやま』(秋田魁新聞デジタル版) などを執筆。 http://www.komatsucraft.com/ Twitter @Komatsucraft