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神野善治先生と行く秋田人形道祖神ツアー(県南編)

投稿者:小松 和彦 投稿者:小松 和彦 小松 和彦

5月17日

県北編より続く)能代市から湯沢市へ一気に南下。最初の目的地は岩崎のカシマサマです。「人形道祖神のメジャーリーガー」の圧倒的な迫力にクラウディアさんと安田さんも大興奮。

4月に作り替えが行われたばかりの岩崎末広町のカシマサマ

何度となく調査で岩崎に来られている神野先生ですが、同町にある安政2年創業の味噌醤油醸造蔵・石孫本店にはまだ入ったことがないとのこと。宮原さんのご友人たちを案内したツアーでも大好評だったので、ご案内しました。

国登録有形文化財に指定されている石孫本店

神野先生はお座敷にあった香時計に注目。最近の研究テーマの一つということで、その作りや使い方について詳しく教えていただきました。お店の方からご案内いただいた蔵でも、古い道具や製造技法について精通されております。これまで古い醸造蔵を数多く調査されてこられたそうですが、「ここは今も生きている」と。

末野のショウキサマの前でW斉藤さんと神野先生という夢のショット

そして、大きな人形祭りと小さな人形祭りが同日開催される奇跡の村、横手市大森末野へ。なんとショウキサマ立てのリーダー・斉藤繁さんと頭作りの名人・斉藤剛さんのお二人が外で談笑されておりました。ご挨拶して、神野先生をご紹介。実は『人形道祖神・境界神の原像』(白水社)には、50年近く前に先生が撮影されたショウキサマの肩に乗っている中学生の繁さんの写真が掲載されているのです。今年の末野の行事には久々に秋田人形道祖神プロジェクトがフルメンバー(といっても二人ですが)で、伺わせていただきます!

多賀糸さんの熱い道祖神愛に神野先生も感激

この日は横手市内に宿泊。仏像や道祖神の調査研究に日々邁進中の高校3年生・多賀糸尊さんも合流して、ホテル近くの飲食店へ。多賀糸さんがこれまで書き綴ってきた調査ノートやイラスト作品をご覧になり、神野先生は感激のご様子。人形道祖神研究は世代を超えて秋田に根付いております。

5月18日

まじないの聖地ともいうべき手足観音

この日は朝一番に多賀糸さんに教えてもらった横手市平鹿町の通称「手足観音」へ。私も初めて訪れたのですが、凄まじい「まじない」のパワースポットでした。2019年に神野先生が企画し武蔵野美術大学美術館で開催された『手のかたち、手のちから』はまさにここに奉納されている「手足形」を中心とした展示会でした。手足関連以外にも気になる奉納物があり、興味が尽きない聖地です。

カサが取れてしまったカシマサマ、直してあげたいけど大きすぎて届かない・・・

そして秋田県内最大のわら人形・横手市山内にある「田代沢のカシマサマ」へ。こちらの道祖神は2018年に取材し、第1作目の『村を守る不思議な神様』で取り上げました。今年もゴールデンウィークに作り替えが行われましたが、2020年からはマスクをかけるのが定着したようです。

ここから県境を越えて岩手県へ!

木の枝にまたがって祭られている白木野のわら人形

田代沢のカシマサマから距離にして約3キロの場所にある白木野のワラニンギョウへ。神野先生は人形道祖神研究の中で、最も早い時期に調査に来られていたそうです。私にとっては2年前、恐怖の超常現象が発生し、拝むことができずに帰った因縁の道祖神。今回は無事にたどり着く事が出来ました。やはり!怖い表情をしております。

その後は、遠野へ。おそらく中学生以来なので約30年ぶり。当時は秋田からすごく遠かったイメージがありましたが、今は高速道路が整備されているので、だいぶ近くなったように感じます。
高速道路のインターチェンジを降りると、全国のバイパス沿いにある大型電気店や衣料品店の看板が。「民話の里」も時代と共に大きく変わりました。

「虫追い祭り」に使われるわら人形

最初の目的地は「遠野伝承園」。移築された曲がり家の一画に夏の「虫追い」に使われるわら人形が置かれていました。クラウディアさんが「女の人のモデルはバーブラ・ストライサンドですか?」と鋭いご指摘。たしかにそっくり。毎年夏に伝承園の主催で地元の子供達と老人クラブの皆さんにより「虫追い」が行われているそうです。

民俗学のメッカにふさわしく民俗資料が充実している博物館

旅の最後は遠野市立博物館。ずっと来てみたかった民俗学専門の博物館で、想像以上に素晴らしい展示でした。こちらにも数々のわら人形が陳列されております。遠野には「春風祭り」、「虫追い」、「雨風祭り」といった人形送りの行事があり、その際に使われたもの。現在でも各村々で行われているのか学芸員の長谷川さんに尋ねてみると、昭和50年代に廃れてしまい、現在では伝承園や「遠野ふるさと村」といった観光施設でやっているとのこと。最近私がドハマリしている百万遍念仏で使われた数珠も展示されていましたが、こちらも行われなくなったそうです。

「民話の里」と呼ばれる遠野でも、こうした民間信仰の行事が催されなくなったという事実に衝撃を受けました。そう考えると、今でもわら人形の道祖神を毎年作り替える行事や鹿島流しや百万遍念仏を把握しきれないくらい各地でやっている秋田県は凄いのかも。しかし、今のまま人口減少が続けば遠からず無くなっていくので、民俗行事を保存しながら続けていくとなれば、伝承園や「ふるさと村」のような施設が必要となるのではないか、など。色々と考えさせられた30年ぶりの遠野でした。

神野先生とクラウディアさん、安田さんとは新花巻駅でお別れ。様々な発見があり、本当に勉強になった2泊3日の旅でした。車中で先生のお話をずっと聞かせていただけたことは大きな刺激になり、人形道祖神をはじめとする秋田の民俗文化についてこれからもっと調べていきたいという気持ちを改めて持ちました。今度は行事の取材でご一緒させていただけたらと思っております。

Writerこの記事を書いた人

投稿者:小松 和彦
郷土史研究 小松 和彦
工芸ギャラリー・小松クラフトスペース店主 『秋田県の遊廓跡を歩く』(カストリ出版)、 『新あきたよもやま』(秋田魁新聞デジタル版) などを執筆。 http://www.komatsucraft.com/ Twitter @Komatsucraft