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コロナ禍中の人形道祖神行事

投稿者:小松 和彦 投稿者:小松 和彦 小松 和彦

緊急事態宣言下でのゴールデンウィークが終わりました。例年はこの時期、帰省客で賑わう秋田駅周辺はほぼ「ロックダウン」しており人影もまばら。現在、秋田県内では3週間以上、新型コロナウイルスの感染者が新たに確認されておらず「もちこたえている」状況ですが、観光業やサービス業といった地域経済への打撃は甚大です。

100年ぶりのパンデミックで、人形道祖神には「疫病から人々を守る」という本来の役割が期待されています。春は各地で作り替えを伴う行事が始まる季節。しかし、このブログでも書きましたが、緊急事態宣言が発令されている間は取材を自粛しております。どうしたら良いかを考えた結果、「電話取材」をさせていただくことにしました。

岩崎末広町のカシマサマの行事(2019年4月撮影)

まずは「人形道祖神界のメジャーリーガー」こと湯沢市岩崎のカシマサマ。毎年4月に3つの町内のカシマサマが作り替えられ(栄町だけは2年に一度)、一昨年から毎年取材に伺っています(昨年の取材はこちら→末広町緑町)。今年は4月19日に末広町と緑町の二体のカシマサマを作り替えるというお知らせをいただいておりました。取材はできないけど、出来たばかりのカシマサマは見に行こうと思っていましたが・・・。

末広町の会長を務めていらっしゃる石川淳司さんにお電話したところ「今年は中止しました」とのこと。当初は「こんな時だからこそ」作り替える予定だったそうですが、前日に開かれた会議で中止を決定。岩崎のカシマサマの行事にはマスコミや見学者が町外からたくさん来るので、「万が一」のことを考えて町内の皆さんの安全を守ることにしたそうです。

「やりたかったけど今年は仕方ないです」と残念そうな石川さん。延期も考えたそうですが、暖冬の影響で昨年作った現在のカシマサマに痛みが少なく、もう一年頑張っていただくことになったとのこと。苦渋の決断をしなければいけなかった岩崎の皆さんの胸中は察するに余りありますが、きっとこのカシマサマが村を守ってくれるに違いありません。

続いては「カシマ・ザ・ジャイアント」こと県内最大級(4・5メートル)の人形道祖神・田代沢のカシマサマ(横手市山内)。岩手県境近くにあり、毎年4月末に作り替えが行われます。

田代沢のカシマサマ(2018年4月撮影)

4月29日、秋田魁新報になんとマスク姿のカシマサマの写真と共に作り替えの様子が記事になっていました。早速、2年前の取材でお世話になった佐々木雄一郎さんにお電話させていただきました。

「自粛ムードもあったが、毎年やっていることだし、元々疫病が入ってこないように立てた神様なので『こうゆう時だからこそ作り替えをしよう』と決まりました」と佐々木さん。10名の方が参加し、皆マスクを着けてなるべく話をせず、ソーシャルディスタンスに気を付けながら衣替えを行ったそうです。作業中、「新型コロナに罹らないよう、カシマサマにもマスクを付けた方がいいんじゃないか」という話になり、その場にいらっしゃった多賀糸尊さんのお母さんが持っていたタオルでカシマサマ用のマスクを作ったとのこと。

「本来は岩手の方から入ってくる疫病を防ぐ目的で立てたカシマサマだけど、岩手県では新型コロナの感染者はゼロ。今年は秋田の方へ向けて立てた方がいいかな、なんていう話も出たりしてね」。そんな佐々木さんのお話を聞いているうちにどうしてもマスク姿のカシマサマを拝みたくなり、5月3日に行ってきました。もちろん 「車で来て、見て、誰とも会わずに帰る」 緊急事態宣言下の取材スタイルです。

まさにコロナ渦中でしか見られない(!)カシマサマのお姿。

田代沢のカシマサマ

私たちの最新版プロフィール写真も撮りました。

最後は大仙市の斉内(下斉内)のオニョサマです。こちらの人形道祖神も毎年ゴールデンウィーク中に「オニョサマ立て」と呼ばれる衣替えが行われます。

斉内のオニョサマ(2019年7月撮影)

2年前の取材、そして昨年秋の「オニョサマフェス」でもお世話になった小松賢誠さんに電話取材させていただきました。

今年は7名で衣替えをし、恒例の「百万遍念仏」を行ったそうです。これまで「オニョサマ立て」は下斉内と上斉内の講中の家から代表者が一名ずつ参加して行ってきましたが、来年からは一軒から数名でも参加できるようになるとのこと。「コロナが落ち着いたら、覆屋に扉を付けていつでも直接見られるようにしたいですね」と小松さん。この春もオニョサマは大切に祀られています。

行事の中止を決断をした岩崎。まさに今を切り取った田代沢。例年と変わらない斉内。新型コロナが猛威を振るう中、人形道祖神を祭る集落の選択はそれぞれ異なっていました。パンデミックが人形道祖神の行事にどんな影響を与えていくのか、今年はこのテーマでも記録を続けていきます。

電話取材にご協力いただいた各集落の皆様、本当にありがとうございました。

緊急事態宣言は延長が決まりましたが、比較的感染者が少ない秋田県のような地方では緩和される動きが出ております。状況を見て私たちの取材活動もソーシャルディスタンスに気を付けながら再開できたらと思っております。

※末広町のカシマサマ、田代沢のカシマサマ、斉内のオニョサマを2018年に取材した記録は『村を守る不思議な神様(1)』に収録しております。

Writerこの記事を書いた人

投稿者:小松 和彦
郷土史研究 小松 和彦
工芸ギャラリー・小松クラフトスペース店主 『秋田県の遊廓跡を歩く』(カストリ出版)、 『新あきたよもやま』(秋田魁新聞デジタル版) などを執筆。 http://www.komatsucraft.com/ Twitter @Komatsucraft