人形道祖神研究の第一人者であり、私たちが師と仰ぐ民俗学者の神野善治先生。著書である『人形道祖神・境界神の原像』(白水社)は、まさに教科書というべき存在です。一昨年、角川武蔵野ミュージアムでの人形道祖神の展示の際には、設営作業でご一緒させてもらいました。いつも温かいご指導と、心強い応援を頂戴しております。
神野先生には常々「一緒に道祖神を巡りましょう」とお誘いしておりましたが、コロナ禍もあってなかなか実現できませんでした。ついに今月秋田に来られることになり、2泊3日の日程で同行させていただけることに。その様子を2回に渡ってご紹介いたします。

今回神野先生はニューヨーク市立大学ハンター校の演劇教授・クラウディア・オレンツチンさん、通訳として同行されている安田龍雄さんの3名で北東北に来られました。青森県の民間信仰を調査された後、17日に私と合流。大館と横手に一泊ずつし、19日に岩手県から東京へお帰りになるというスケジュールです。
5月17日

お昼過ぎに青森空港で待ち合わせをし、一路秋田県へ!県境を超え、最初の目的地は大館市最大の藁人形・松原のニンニョサマ。はじめて実物の人形道祖神をご覧になったクラウディアさんは「アメイジング!」と大喜び。初めてこちらを取材したのは50年近く前という神野先生もニンニョサマのほぼ変わらぬ姿に目を細めていました。

神野先生が中心となって企画し、1991年に川崎市民ミュージアムで開催された『道祖神の源流展』には中羽立のニンギョウサマ3体が展示されました。今もニンギョウサマの祠には集落の皆さんがツアーで展示を見に行かれたことを記した説明版が掛けられています。当時、川崎へと運ばれていくニンギョウサマをおばあさんたちが涙を流しながらお見送りしたのだとか。道祖神と人々との繋がりの深さを感じさせるエピソードです。

次々と個性派道祖神を見ていきます。2019年に行事を取材させていただいた大森のニンジョサマ(アキニンギョウ)も健在。「ジョジョ立ちしている神様ですね」と安田さん。言われてみれば、たしかに!

1月に講演会を開催させていただいた「人形道祖神の聖地」山田集落へ。道祖神の祝祭「ジンジョ祭り」を初めて詳細に報告されたのも神野先生です。ジンジョサマ巡りの途中、山田集落会会長の赤坂実さんの姿が。尊敬するお二人のツーショットをジンジョサマと共に撮らせていただきました。

平安時代の文献に記載されている道祖神と姿かたちが類似していることを神野先生が報告し、一躍注目されることになった「古代の道祖神」雪沢地区のドジンサマ。先生が初めて取材された頃は、人形からとれた腕や男根と思われるものも祠に置いてあったとか。まさに「道祖神の原像」ともいうべき神々をめぐり、この日のツアーは終了。大館市内のホテルに宿泊しました。
5月18日

朝一番で能代市二ツ井の小掛のショウキサマへ。iPadで昨年の行事を動画でご覧いただきながら、拝観。女のショウキサマ(女体と呼ばれる)が存在するユニークな背景を、神野先生がクラウディアさんに解説します。
「道の駅ふたつい」でかつて菅江真澄が紹介した二ツ井の名所を紹介する動画を視聴していたところ、米代川沿いにある「舟神様」に神野先生が鋭く反応。早速行ってみることに。かつて渡しがあった川岸の近くに、小さな祠がありました。

付近を散策すると、神野先生が川船の一部や木材を運ぶための道具などを発見。それぞれの作り方や使い方を解説していただきました。先生の代表作の一つである『木霊論』は家や船の民俗について書かれた本。船の構造から民具まで、あらゆることに精通しているその知識量に改めて敬服しました。
ここから高速道路で一気に県南へ。横手盆地を目指します。(つづく)