秋田県内の人形立て行事において、一年の締めくくりとなるのが大館市山田の「ジンジョ祭り」です。地元で「ジンジョが終わると冬が始まる」と言われる通り、この祭りの時期を迎えると、いよいよ年の瀬を感じます。
私が初めて取材に訪れたのは2018年のこと。宮原さんと一緒に赤坂常会の祭りを見学させていただきました。その時の様子は『村を守る不思議な神様2』や『村を守る不思議は神様・永久保存版』に掲載しております。翌2019年も赤坂常会を取材し、2020年には新明岱常会の祭りを取材。その様子は秋田魁新報「ハラカラ」で「朝日のあたるジンジョサマ」として紹介しました。同年には、角川武蔵野ミュージアムに展示するための人形作りも行われました。

その後も、2021年は人形作りを見学、2022年は講演会の開催や文化庁の伝承事業による3泊4日の密着取材、2023年には大館市ニプロハチ公ドームでの「新・秋田の行事」におけるワークショップ開催と、交流は続きました。そして昨年(2024年)も宮原さんと共に訪れ、神官さんによるお祓いを見学しました。こうして振り返ると、この7年間、毎年欠かさず山田に通っていることに気づきます。秋田県内で人形道祖神を祀る集落は数多くありますが、これほど継続して通い続けているのは、横手市末野とここ山田くらいです。

これほどまでに足を運び続ける理由は、何といっても一つの集落の8カ所に男女一対の人形が祀られている「人形道祖神の聖地」であること、そして多様な「まじない」が複合的に執り行われる祭りの魅力にあります。今なお旧暦の祭日に合わせ、各常会の「当番宿」を会場とする祭りの形態を維持している点も、極めて貴重な事例です。 しかし、近年の人口減少は深刻で、行事の継続が困難になりつつあります。昨年はついに、人形の作り替えや巡行がすべての常会で見送られ、神官によるお祓いのみの実施に留まりました。
ジンジョ祭りは「旧暦10月末日の前日」に開催されるため、今年は12月18日にあたります。山田集落会の元会長で、赤坂常会にお住まいの赤坂実さんに問い合わせたところ、「赤坂常会は例年通りやります。うちが宿になっているのでぜひ来てください」と心強いお返事をいただきました。そのお言葉に甘え、今年も伺わせていただくことになりました。

お昼過ぎに山田集落に到着。ちょうど新明岱常会のジンジョサマが祠に戻られたタイミングでした。今年、新明岱では人形の作り替えや「八皿の儀」、巡行などの神事を例年通り実施したそうです。昨年は縮小を余儀なくされていただけに、その嬉しい知らせに心が躍りました。

赤坂さんのお宅へお邪魔すると、床の間には新しく生まれ変わったばかりのジンジョサマが鎮座されていました。今年は14日に、赤坂さんの家の納屋で5名の手によって制作されたとのこと。赤坂さんが「今年はよくできました」と太鼓判を押す通り、非常に立派な体躯のジンジョサマです。その前には、この祭りには欠かせない三種の供え物(デンブ、ナマス、ニシメ)が供えられていました。

午後1時から神事が始まりました。祭りに参加するのは、赤坂常会の「ジンジョ会」に加入する各家の代表者に加え、赤坂さんの息子さんである恒平さんと祐幸さんの姿もありました。神事は例年通り、「高砂」の詠唱から幕を開けました。

続いて「八皿の儀」へと移ります。これは7つの盃に注いだ酒をすべて大椀にまとめ、飲み干すという独特な所作を伴うものです。人形道祖神に付随する神事として、このような形式の儀式が見られる事例は、現在では山田集落をおいて他にありません。

宴もたけなわとなった頃、宿を今年から来年の当番へと引き継ぐ「トワタシ(戸渡し)」が行われます。これは三々九度の形式で執り行われる厳かな儀式です。初めて取材した2018年には、翌年の宿となる家の奥様が仕事でどうしても参加できず、宮原さんが代役を務められたことも、今では懐かしい思い出です。

午後3時過ぎ、いよいよジンジョサマの巡行が始まります。今年は担ぎ手を、赤坂さんの二人の息子さん、そして私と埼玉県から見学に来られたWさんが交代で務めることになりました。 山田に通い続けて7年。ジンジョサマを肩に担いで歩くのは、今回が初めてのことです。思いがけず任された大役に、感慨もひとしおでした。ずっしりと伝わる約15キロの重みは不思議と心地よく、道祖神界のスーパースターを支えているのだという実感が胸に迫りました。

ジンジョサマの一行は、赤坂常会の隅々までくまなく巡行します。2018年には隣接する上名、向館との境界で「ぶっつけ」が執り行われ、その様子を記録しました。2022年には赤坂、新明岱間でも再開されましたが、現在は再び中断を余儀なくされています。「道祖神の祝祭」と呼ぶにふさわしいこの儀式が、再び行われる日が来ることを強く期待しています。

常会内を周った後、ジンジョサマは祠へお戻りになりました。ここで再び「高砂」を詠唱して、一同拝礼し、赤坂常会のジンジョ祭りは滞りなく終わりました。
当日は秋田魁新報(ジンジョ祭りの記事)や北鹿新聞、NHKなどのメディアが取材に訪れ、NHK秋田放送局の「ニュースこまち」では12月25日に「山田地蔵祭り次世代に」と題した特集が放送されました(12月30日現在、NHKONEで配信中)。 このようにメディアの注目が集まる一方で、祭りの参加者は年々減少しており、存続が困難になりつつあるという課題も抱えています。こうした状況を踏まえ、赤坂さんは、祭りの保存に向けた組織づくりを来年から進めていきたいと考えています。
私自身、7年間にわたり毎年山田に足を運ぶ中で、この行事に対する向き合い方や感覚が少しずつ変化しているのを感じています。活動初期にお話を伺った方の中には、既にお亡くなりになったり、施設に入られたりした方もいらっしゃいます。その一方で、恒平さんや祐幸さんのような次世代を担う方々との新たな出会いもありました。今後も「人形道祖神の聖地」である山田集落に通いながら、ジンジョ祭りを未来へつなぐお手伝いをさせていただければ幸いです。
2025年も多くの皆さまに支えられ、秋田人形道祖神プロジェクトは充実した活動を続けることができました。心より感謝申し上げます。 2026年も、人形道祖神の魅力を伝え、次世代へつなぐために精進してまいります。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
小松 和彦