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一年の締めくくりは山田のジンジョ祭り

投稿者:小松 和彦 投稿者:小松 和彦 小松 和彦

2020年も残すところ数日。今年は新型コロナの世界的流行が起き、私たちの活動も大きく影響を受けた一年。人形道祖神が生まれるきっかけになった「疫病」という、これまで文字の上でしか知りえなかった禍が、こんなに身近に起きるとは思ってもみませんでした。各地のお祭りや行事が中止となる中で、「こんな時だからこそ」とより強い願いを込めて人形道祖神を作り替えたり、規模を縮小しながらもお祭りを行ったりする集落もあり、取材させていただく度に感動がありました。

秋田の人形道祖神行事の中で一年の最後に行われるのは大館市山田のジンジョ祭り。毎年、旧暦10月末日の前日(11月末~12月初旬)に山田集落にある7つの常会(町内)にそれぞれ祀られている男女一対の人形道祖神・ジンジョサマ(地蔵様)の祭典が行われます(詳しくは『村を守る不思議な神様2』で)。一昨年昨年は赤坂常会にお邪魔しましたが、今年は新明岱常会の行事を取材をさせていただきました。

新明岱は山田集落のなかでも一番小さい常会で、全11戸。昨年は参加できない人が多く、人形の作り替えができなかったそうですが、今年は4名の方(うち1名は川反常会から助っ人)が集結。お祭りの前日である12月12日、宿の田村金彦さんのご自宅で長老の田村政一さんの指導の元、男女のジンジョサマを作り替えました。

6月に行われた角川武蔵野ミュージアムに展示用の人形の制作の時に分かったことなのですが、赤坂常会と新明岱常会では手足の編み方が微妙に違います(赤坂は指を作ってから横にワラを編み込んでいく。対して新明岱は指を作る前に一部を横に編み込む)。川反常会から助っ人として参加している岩澤優さんも「うちの常会とは違う」と驚かれていました。また、こちらののジンジョサマは自立できるように足に芯棒をいれるのも特徴です。お昼過ぎには2体のジンジョサマが完成。田村さんのご自宅の床の間でお祭りします。

女神の褌に描かれた蕪の絵は宮原さんが筆をとりました!一昨年は赤坂常会の女神の秘所、昨年は女神の褌、そして今年は新明岱常会の女神の褌と、3年連続で宮原さんは山田のジンジョサマに何かしらの痕跡を残しています。

翌13日、ジンジョ祭り当日。朝9時に神主さんが来て、魂入れの儀式を行いました。神主さんは各常会を周り、それぞれのジンジョサマに魂を入れていきます。

ジンジョサマには「でんぶ」、「なます」、「にしめ」というジンジョ祭りではお馴染みの3品と尾頭付きの鯛、そしてこの一年集落で穫れた農作物が奉納されています。

赤坂常会で行われていた「八皿の儀」は新明岱でも。ヤマタノオロチの神話になぞらえた、無病息災、五穀豊穣の儀式です。赤坂では7つの盃に一つのお椀でしたが、こちらでは8つの盃に一つのお椀を使ってお酒を飲みます。

「八皿」が終わると、ジンジョサマは宿のお宅を出て町内を巡行。10年前までは担いだそうですが、最近は軽トラに乗せられて周ります。一昨年、赤坂常会で見た隣の常会とのジンジョサマの「ぶっつけ」は新明岱ではありません。

巡行を終えたジンジョサマは村はずれの祠へお戻りに。「秋からずっと準備してきたのでこれで一安心。どうか新明岱のみんなを守ってほしい」と宿の田村さん。一年の最後を締めくくる行事にふさわしく、雪の中でのフィナーレ。感動的な取材をさせていただき、本当にありがとうございました。

同じ山田集落のジンジョサマでも赤坂と新明岱では行事のやり方が違っており、とても興味深かったです。そして、長老の田村政一さんをはじめ、皆さんからお聞きしたお話がとても面白く、いずれまとめて書いてみたいと思いました。

来年もしばらくはコロナ禍と隣り合わせの生活が続きそうですが、人形道祖神をはじめ、多くの伝統行事にとっては時代に合わせてどのように続けられるのか、改めて試練となる年になりそうです。秋田人形道祖神プロジェクトも感染防止対策に十分に気を使いながら、可能な限りコロナ禍での人形道祖神行事を記録していきたいと思っています。

秋田県立近代美術館で現在開催中の「ARTS & ROUTES -あわいをたどる旅」に出展している作品について、私と宮原さんがインタビューを受けた記事が「アーツセンターあきた」さんのウェブに公開されました。取材のプロセスから人形道祖神の魅力など、たっぷりとお話しております。

菅江真澄の記録をもとに時空を超えた追跡へ「幻の泥塑天子を探して」

気になった方は是非、秋田県立近代美術館へ!50年近く前に制作された山田のジンジョサマも展示されていますよ。

「ARTS & ROUTES
あわいをたどる旅」

会期/2020年11月28日(土)~2021年3月7日(日)
(休館日:12月29〜31日及び、1月13〜22日)
会場/秋田県立近代美術館
観覧料/一般1,000円(800円)/高校生・大学生500円(400円)
※中学生以下無料、( )内は20名以上の団体および前売の料金、学生料金は学生証提示、障害者手帳提示の方は半額(介添1名半額)
主催/ARTS & ROUTES 展実行委員会(秋田県立近代美術館・AAB秋田朝日放送)・秋田公立美術大学

Writerこの記事を書いた人

投稿者:小松 和彦
郷土史研究 小松 和彦
工芸ギャラリー・小松クラフトスペース店主 『秋田県の遊廓跡を歩く』(カストリ出版)、 『新あきたよもやま』(秋田魁新聞デジタル版) などを執筆。 http://www.komatsucraft.com/ Twitter @Komatsucraft