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4年ぶりにぶっつけが復活!山田のジンジョ祭り

投稿者:小松 和彦 投稿者:小松 和彦 小松 和彦

晩秋に催される秋田県の人形道祖神の代表的な行事といえば、大館市山田集落の8つの常会(町内)で行われる「ジンジョ祭り」です。『村を守る不思議な神様・永久保存版』(KADOKAWA)の第4章「男と女の神」でも紹介したこちらのお祭り。2018年に初めて取材させていただいて以来、ほぼ毎年伺っております。今年1月には現地で講演会もやらせてもらいました。

ジンジョ祭りにとって今年は特別な年になりました。文化庁の「地域の伝統行事等のための伝承事業」に採択され、祭りの様子を撮影することになったのです。映像制作はNHK『ファミリーヒストリー』やTBS『情熱大陸』などの番組を手掛けているユーコムさん。この事業に私と宮原さんはコーディネーターとして参加させていただくことになりました。そしてなんと「人形道祖神」の名付け親であり、私たちが師と仰ぐ民俗学者の神野善治先生も調査に来られることに。「人形道祖神の聖地」で神野先生と一緒に取材できるという最高の機会。3泊4日という泊りがけの取材は初めて。秋田人形道祖神プロジェクトにとって、今年最大級のビッグイベントです。

山田のジンジョ祭り(2018年)

11月9日、大仙市のオニョサマ立ての後、山田へ向かいました。この日は山田集落の赤坂常会の皆さんと撮影チームのディレクターのSさん、そして私による最初の打ち合わせです。「旧暦10月末日の前日」に行われる祭りの今年の開催日は11月22日、そしてその2日前の20日に人形作りが行われることに。昔ながらの儀式をほぼ完全な形で伝える赤坂常会での撮影が決まりましたが、一つ気がかりなことがありました。それは2018年を最後に行われていない「ぶっつけ」のことです。

「ぶっつけ」が無かった2019年のジンジョ祭り

「ぶっつけ」は異なる常会の男女の人形を交合させるようにぶつけ合うまさにジンジョ祭りのハイライト。しかし、人形作りを毎年行う常会が少なくなり、さらにコロナ過で自粛傾向が続いたことで、この4年間は一度も行われていません。初めてぶっつけをやらなかった2019年の祭りでは、何とも言いようがない寂しさを感じました。


打ち合わせで「ぶっつけ」について尋ねたところ、「この辺りの常会でジンジョを毎年作り替えているのは赤坂だけだから、今年も無理だろう」とのこと。しかし、今回は映像資料として後世に残る特別な年。なんとかぶっつけを実現できないか、相談したところ、
「昨年作り替えした新明岱とならできなくはない」
と集落会会長の赤坂実さん。新明岱は山田の一番西側にある常会で、ジンジョサマをほぼ毎年制作していますが、他の常会と離れた場所にあるため、通常「ぶっつけ」は行われていません(2020年の取材)。

新明岱のジンジョサマ(2020年撮影)

赤坂さんが新明岱の田村金彦さんへ電話。突然のお誘いに驚かれたと思いますが、「祭りを廃れさせない」という赤坂さんの熱意が伝わり、快諾していただきました。今回「ぶっつけ」が行われる場所は、新明岱と山田の他の常会との境目にあたる橋の上。まさに人形道祖神の復活祭にふさわしい舞台です。

赤坂常会のジンジョサマ作り

11月19日、宮原さんと神野先生と合流し、ご挨拶と下見に山田集落へ。翌、20日は早朝から人形作りの取材。今年は朝から夕方までたっぷり時間をかけて制作されました。「いいジンジョが出来た!」と赤坂さんも大満足。

神野先生との取材は日暮れまで及ぶことも

翌21日は大館市各地の人形道祖神の撮影と取材。神野先生からは長年の調査経験で培われた資料の見方や聞き取りの方法などを教えていただき、本当に勉強になりました。一番尊敬する先生から最高の授業を受けた4日間でした。

新明岱常会での「八皿の儀」

22日、いよいよジンジョ祭り当日。朝から各常会のジンジョサマを見学。そして、新明岱常会の「八皿」(ジンジョ祭りの際、各常会で行われるまじないの儀式で、詳しくは後述の動画を参照)では、宮原さんも参加しました。

宴もたけなわとなった時、外から太鼓の音が。赤坂常会の皆さんが橋の向こうから打つ寄せ太鼓です。これを合図に、いよいよ新明岱のジンジョサマは初の「ぶっつけ」に出陣します。

私は取材で感傷的になることはあまりないのですが、祭りを復興させたいという山田の皆さんの想いが突然胸に押し寄せてきて、感極まってしまいました。ここから「ぶっつけ」までの場面は、一生忘れられない感動的な時間でした。

横手市から人形道祖神の調査研究にまい進中の高校三年生・多賀糸尊さんも駆けつけました

まさに4年ぶりの復活祭となった今年のジンジョ祭り。3日間に渡り撮影された映像はYouTubeサイト「私たちの祭り探検 #31秋田県・大館市山田のジンジョ祭り」で配信されています。案内役は大河ドラマ『鎌倉殿の13人』にも出演されていた俳優の福田愛依さん。若い女性らしい視点で、様々な「まじない」に溢れたこの行事について分かりやすく紹介されています。最新鋭のカメラで撮影された美しい映像も必見!ぜひご覧ください♪

Writerこの記事を書いた人

投稿者:小松 和彦
郷土史研究 小松 和彦
工芸ギャラリー・小松クラフトスペース店主 『秋田県の遊廓跡を歩く』(カストリ出版)、 『新あきたよもやま』(秋田魁新聞デジタル版) などを執筆。 http://www.komatsucraft.com/ Twitter @Komatsucraft