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一年の計はナマハゲにあり!男鹿市、秋田市の来訪神行事(動画付き)

投稿者:小松 和彦 投稿者:小松 和彦 小松 和彦

昨年、愛知県の名古屋市立大学と宮城県の東北工業大学でリモートによるレクチャーをやらせていただいた際、学生さんたちに2つの質問をして、挙手で回答してもらいました。
①「ナマハゲを知っている人?」
②「カシマサマを知っている、または見たことある人?」
ナマハゲはなんと全員挙手!カシマサマは確認した限りゼロでした(涙)ナマハゲの圧倒的なネームバリューに驚くとともに、人形道祖神の認知度の低さに「もっと知ってもらわなければ!」と感じた次第です…。

秋田県内の人形道祖神が祀られている集落の数(約150カ所)は日本一。ナマハゲも同様で男鹿市だけで約90カ所、類似行事を合わせると県内約100カ所近い集落で行われています。国内の来訪神行事としてはダントツの分布数でしょう。ナマハゲと人形道祖神は秋田県が誇る民間信仰の2大スターなのです。

にかほ市小滝のアマノハギ(2022年撮影)

『村を守る不思議な神様・永久保存版』(KADOKAWA)の第10章「ナマハゲと道祖神」では、行事の開催時期や分布圏には対照的といっていいほどの違いがあるものの、無病息災や子孫繁栄を祈願する同じ性格を持った神様なのではないか、と考察しました。しかし、ナマハゲと人形道祖神がかつて共存していた集落があることも判明。「このテーマについてもっと深く調べなければ」と強く感じたのは、昨年3月に取材した男鹿市百川集落の百万遍念仏供養です。

春彼岸の中日、老人クラブの皆さんがワラで作った竜の綱を携えて集落を練り歩く(2022年撮影)

百万遍は道祖神と同様「悪疫退散」と「境界」が強く意識されたマツリでした。この行事とナマハゲにはどんな相互関係があるのか。その事実を確認するためにも、この集落で大みそかに行われるナマハゲを取材してみたい。老人クラブの会長さんにお願いして、同行させていただくお許しを得ました。

12月22日、百川では保存会の皆さんによりナマハゲが纏うケラづくりが行われました。ナマハゲ一匹につき三枚のケラが必要となるそう。古いお面は木で作られていますが、最近のものは金属製のザルに紙を貼って成形されています。

合計6枚のケラが1時間あまりで完成

12月31日、百万遍も一緒に取材した横手市の高校3年生、多賀糸尊さんと再訪。午後5時に保存会の皆さんが公民館に集合。今年ナマハゲになるのは30代前半のお二人。神様に変身した後、近くの八幡神社で宮司さんによるお祓いを受けます。そしていよいよ巡行がスタート!

2022年は2匹でまわった百川地区のななまはげ

昔は集落のほとんどの家を周ったそうですが、最近は希望する家だけ訪問することになり、この年は12軒。コロナ過になってからは、玄関先だけ訪問するケースが増えました。それでも本場のナマハゲの迫力はスゴい!

(動画)ナマハゲは壁を叩き、唸り声を上げながらやってくる

「いい子にしてるかー!」と叫ぶナマハゲに、未就学の子供は泣き叫びますが、小学2年生くらいなると、落ち着いて対応。子供の成長が垣間見られるというのが、この行事の特色です。

ナマハゲは7時前には終了。最後にナマハゲの身に着けていたケラを神社の鳥居と狛犬に巻き付けるのが百川の伝統。これが「なまはげが来たという証拠」になるのだとか。その後、公民館に戻って直会です。多賀糸さんと私も加わらせていただき、保存会の皆さんからナマハゲにまつわる興味深いお話を聞かせていただきました。2022年最後の取材は最高のかたちで終えることが出来ました。

男鹿のナマハゲは本来、小正月の1月15日に行われていましたが、昭和に大晦日の行事になりました。しかし、にかほ市や秋田市では今でも小正月の前後に類似行事が行われています。昨年はにかほ市小滝のアマノハギに伺いました。2023年、最初の取材は私の地元である秋田市内の来訪神行事「寺沢の悪魔はらい」です!

秋田市雄和にある寺沢集落は約30軒あまり。秋田駅から車で30分もかからないので、今まで取材した集落の中では一番のご近所。ここには最もプリミティブなナマハゲがいらっしゃるのです。

サンダワラ作りの台はこの行事用に特注したもの

「寺沢の悪魔はらい」の開催日は1月14日。午前10時から、集落の皆さんが「悪魔はらい保存会」の加賀屋会長の作業小屋に集まり、ケラとお面が作られます。こちらの神様のお面はワラで作られたサンダワラ。カシマサマのおっぱいやへそに使われるパーツが、なんと来訪神のお面になるのです。

鼻には魔除けの唐辛子と杉の葉が

角が一本あるのがオス、二本がメス。ちなみに神様の名前は文献などでは「ヤマハゲ」となっていますが、地元の皆さんは「昔からナマハゲと呼んでいる」そうなので、ナマハゲと書かせていただきます。

準備は午前中に終わり、一度解散。午後6時に再び集合し、いよいよ行事がスタート!

(動画)2匹のナマハゲが村を練り歩く

オスはかつて馬小屋の入口に渡していた馬柵棒(ませぼう)、メスは馬橇を引く際に使った金属の道具を持ち、独特な音を立てて歩きます。この音が聞こえてくるだけで、寺沢の子供たちは恐怖を感じるのだとか。

(動画)「悪魔ばらーい!」と叫んでやってくる

加賀屋さんによれば「悪魔」とは様々な災いのこと。年のはじまりに家々をお祓いするのがナマハゲの役割です。

午後8時、集落の高台にある集会所に着いたところでゴール。ここでなんとナマハゲが身に着けていた面とケラを桜の木に巻きつけました。ナマハゲは最後に集落の守り神となって村を見守るとのこと。その姿は人形道祖神にそっくりです。

かつては神社のご神木にくくりつけたという

行事が終わった後は集会所で直会。私も参加し、保存会の皆さんから貴重なお話を聞かせていただきました。

百川のナマハゲと寺沢の悪魔はらい、この二つの来訪神行事については改めて詳しく紹介する機会を設けたいと思います。ナマハゲと人形道祖神の「あわい」を探る連載を現在計画中です。どうぞご期待ください。

開催まであと2週間!あきた無形民俗文化財万博

あきた無形民俗文化財万博〜カタチなきたからもの」に向けて、現在急ピッチで準備が進んでおります。2月5日は「あきた芸術劇場・ミルハス」へ!

Writerこの記事を書いた人

投稿者:小松 和彦
郷土史研究 小松 和彦
工芸ギャラリー・小松クラフトスペース店主 『秋田県の遊廓跡を歩く』(カストリ出版)、 『新あきたよもやま』(秋田魁新聞デジタル版) などを執筆。 http://www.komatsucraft.com/ Twitter @Komatsucraft