本日が「ARTS & ROUTES~あわいをたどる旅」展の最終日。最後に展示空間をどのように作っていったのか、また展示空間を手掛けてくださったデザイナーの越後谷 洋徳さんのことをご紹介します。
(上記photo:草彅裕)
前回の記事でお話した展示のリサーチを終えると、すぐさまシナリオづくりを開始。おおよそ作り込めた段階で、展示のコーディネーターを務められるNPO法人「アーツセンターあきた」の岩根裕子さんにシナリオを送りました。
※『ARTS & ROUTES~あわいをたどる旅』関連記事
準備編 vol.1 「美術館視察」
準備編 vol.1.5「カシマサマ調査」
準備編 vol.2 「カシマサマを運び入れる」
リサーチ編 vol.1 ルポルタージュ形式に決まった経緯
リサーチ編 vol.2 いざリサーチの旅へ(前編)
リサーチ編 vol.2 いざリサーチの旅へ(後編)
展示デザイン編「展示空間の作り方」 →今回の記事
解説編 vol.1 「ついに開幕!」
「9月14日、秋田人形道祖神プロジェクトの宮原より壁面の展示プランが届く(「JOURNAL05」より)」
「9月18日、秋田人形道祖神プロジェクト宮原と岩根が、展示プラン実現のための宮原からの意向の聞き取りと、今後の進め方に関する相談を行い、会場設計にデザイナーの協力を得ることを決定する。(「JOURNAL05」より)」

シナリオの第一稿をもとに、岩根裕子さんと、同じくコーディネーターの高橋ともみさんと私たちの4名で打ち合わせを行いました。
目的はシナリオについて全員で理解し共有を図ること。専門用語や秋田の細かな歴史・地理的な要素が多く、シナリオだけではわかりにくいためです。
上記写真のマップを一緒に作りながら確認していきました。実はこのとき、初めてシナリオを説明する機会でしたので、不安と緊張とでガクガクしていました。


編集担当の高橋さんから「おもしろいと思う」と一言いただくことができ、この瞬間、すべての不安が溶けていきました。
打ち合わせの帰り道、車の中で「今日決まった内容では、これからたくさんの絵を短期間で描かないといけない。大変ですよ」と心配してくれる小松さん。確かに1カ月半でカラフル画が10枚以上、線画は50点近く制作しなくてはなりません。さらには角川武蔵野ミュージアムへ道祖神を搬入する任務と重なっていて、大きな不安はありましたが、やるしかない、と思いました。
「9月24日、秋田人形道祖神プロジェクト小松・宮原とアーツセンターあきた岩根・高橋が、壁面展示の構成要素の整理及びアウトプットのイメージ構築を行い、デザイナーに構成してもらうための素材づくりを行う。(「JOURNAL05」より)」
デザインの素材が完成したので、今度は展示空間のデザインをお願いできる方を岩根さんと高橋さんが探してくださることに。
しかし、なかなかみつかりません。時間が厳しいこと、「道祖神のルポルタージュ形式」という不思議な要素が多々あること、難解なシナリオを読みこなす必要があること、そして勿論、相応のデザイン力が求められること、などが理由です。さすがに不安が募り始めた頃・・・
ある日岩根さんから「越後谷 洋徳さんという、秋田在住のデザイナーさんがいらっしゃるのですが、この方に依頼してみませんか」と連絡がありました。この方のデザインワークを拝見し、「素敵!」と思った私は「是非お願いしたいです」とすぐさま伝えました。
早速越後谷さんを交えて、「アーツセンターあきた」の拠点である「アトリエももさだ」にて説明会が行われました。彼が引き受けてくださるか厳しい状況だと考えた私は「極力お手間にならない、必要最低限のデザインで・・・」と控えめにお話ししました。すると越後谷さんの口から展示に関する様々なアイデアが出され、それがまたクリエイティブな内容で、あっけにとられました。「やっぱりこの方と展示空間を一緒に作ることができたら最高だ」と思いました。
打ち合わせ終盤には「越後谷さんが展示のデザインを引き受けてくれる」という雰囲気が漂いはじめ、越後谷さんも「私がやらないとどうにもならないのですよね?」と口にしてくださいました。それを聞いた瞬間の喜びようといったらなかったです。
この日から、11月21日の美術館搬入に向けて急ピッチで展示空間づくりが進められていきました。
「10月14日、秋田人形道祖神プロジェクト小松・宮原とアーツセンターあきた岩根・高橋が、デザイナー越後谷洋徳へ壁面展示のレイアウト構成及び、アウトプット方法の相談と依頼を行う。(「JOURNAL05」より)」
その後、越後谷さんとメールで何度もやりとりし、少しずつ展示空間が見えてきました。
「10月21日、デザイナー越後谷洋徳より、秋田人形道祖神プロジェクトの壁面構成プランのたたきが届く。(「JOURNAL05」より)」

ここで初めて展示空間を具体的に共有することができました。流れを導くために「木材」を使うこと、その木材に「桂瀬のショウキサマ」などの各タイトルをお札のようにぶらさげること、など越後谷さんにアイデアを伝えてもらいました。私もイメージができるまで沢山質問させていただきました。
「10月24日、秋田人形道祖神プロジェクト小松氏・宮原氏とデザイナー越後谷洋徳・アーツセンターあきた高橋が、デザイナーの展示プランに関する内容についてや方向性の共有を行う。(「JOURNAL05」より)」

越後谷さんが作成された展示プランを元に、カラフルな道祖神画の制作を進めていた私は一旦筆を休め、デザインに合わせて急ピッチで線画を大量に描き始めることにしました。ギリギリのスケジュールで進行しており、搬入1週間前に線画データを越後谷さんへ送り、それを越後谷さんがデザイン。デザインデータはアーツセンターあきたの高橋さんの元へ送られ、同センターのプリンターで出力していきます。そして出力された80点以上を高橋さんがパネルに貼り、カッティングへ。


搬入までの1週間は、越後谷さんと高橋さんと沢山のやり取りがありました。この時間はまるで文化祭の準備のようで、皆で作り上げていく不思議な高揚感がありました。
高橋さんから「出力がうまくいかない」「カッティングが厳しい」とSOSが出ると、その都度越後谷さんによる適切なアドバイスがあったりと、お2人の絶妙なチームワークのおかげで準備は完成に近づいていきました。
線画を全て納品できた私は、そこから一気にカラフル道祖神画の制作に没頭します。搬入当日の朝に小松さんのお店で道祖神画を額に収め、いざ美術館へ。

お恥ずかしながら、展示の設置に不慣れな私たち。今まで沢山の展示を担当されてきた越後谷さんと高橋さんに教えを受けながら、少しずつ慣れていきます。




搬入1日目は、多くを残して終了しました。必要な板を求めて美術館近くのホームセンターを小松さんと探しまわることも。(この時の様子はこちらでもご紹介)夜は近くのホテルに泊まり、翌日朝から再び美術館へ。

搬入2日目、突如小松さんが覚醒しました。釘打ち機を使いこなし、小さな鋲でパネルを固定していったり、高い箇所でも額をテキパキ固定していったり。ひたすらガムテープを貼り続けていた私は、彼の勇姿にとても感動し、覚醒の理由を尋ねてみました。すると「早く家に帰りたいから」とのこと。
そのほか、秋田公立美術大学の服部 浩之先生にライティングを調整してもらいました。ライト一つで展示空間の雰囲気が変わることを学びます。
「11月21日、22日、 秋田人形道祖神プロジェクトの壁面制作開始
秋田人形道祖神プロジェクトの小松氏・宮原氏とデザイナー越後谷洋徳・アーツセンターあきた高橋が、秋田人形道祖神プロジェクトの壁面展示の設営に取り掛かる。(「JOURNAL05」より)」
どうしても終わらない箇所があったので、内覧会の2日前の1日を使い、仕上げを行いました。全ての作業を終えたのは夜7時過ぎ。思わず安堵の息が漏れました。
「11月25日、秋田人形道祖神プロジェクトの壁面制作仕上げ
秋田人形道祖神プロジェクトの小松氏・宮原氏とアーツセンターあきた高橋が、ブース展示の最終仕上げを行う。(「JOURNAL05」より)」
何日も共に会場を作り上げてくださった越後谷さんと高橋さん、お二人のご尽力なしには展示は絶対間に合いませんでした。本当にありがとうございました。
展示されるカシマサマの運搬や様々なお手配を担当してくださった岩根さん、お力添えを誠にありがとうございました。
そしてちっぽけなシナリオをここまで大きくわかりやすく、構想に合わせて大胆に素敵にデザインしてくださった越後谷さん、重ねて御礼申し上げます。
皆様のおかげで人形道祖神を楽しく知っていただく新しい方法を実現することができ、感無量です。
秋田に存在する貴重な民間信仰を調査し、調査を通じて自分なりの表現方法を構築し、現代美術のひとつの在り方として、これからも挑戦していきたいと思います。

そして、ご来場いただいた皆様、遠いところお運びいただきましてありがとうございました!奥深い道祖神の世界を楽しんで頂けましたら幸いです。
「ARTS & ROUTES
あわいをたどる旅」
会期/2020年11月28日(土)~2021年3月7日(日)
(休館日:12月29〜31日及び、1月13〜22日)
会場/秋田県立近代美術館
観覧料/一般1,000円(800円)/高校生・大学生500円(400円)
※中学生以下無料、( )内は20名以上の団体および前売の料金、学生料金は学生証提示、障害者手帳提示の方は半額(介添1名半額)
主催/ARTS & ROUTES 展実行委員会(秋田県立近代美術館・AAB秋田朝日放送)・秋田公立美術大学