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カシマの夏、秋田の夏(後編)

投稿者:小松 和彦 投稿者:小松 和彦 小松 和彦

7月19日(日)はトリプル取材となりました。まずは横手市十文字木下(きじた)の鹿嶋祭り。こちらの行事は昨年取材させていただき、今年の1月には公民館でスライドトークも行わせていただきました(こちら

木下のカシマサマは人形道祖神としては珍しく神社の中に祭られております。これは大正時代に安藤ハル(1880~1961)という地元の宗教者が、村境に野ざらしで立てられていたカシマサマを大切に祭るよう村人に働きかけて建立したことによります。女傑・安藤ハルさんのお話はいずれ詳しく紹介できたらと思います。

こちらのカシマサマの行事は明治時代から「鹿嶋祭典」と書かれた記録が残っております。「中編」で紹介した樽見内のカシマサマも木下をモデルにして作られたことが、樽見内での取材で分かりました。

カシマサマが祭られている社で行われた神事

朝、木下に着くと神社では神事の真っ最中でした。 例年、木下の鹿嶋祭りは午前中にカシマサマを作り替え、夕方からは山車に乗せて囃子の音も賑やかに集落を巡行する行事ですが、今年は新型コロナの感染防止のため作り替えは最小限に止め、巡行はやめることになったそうです。いつもお世話になっている菊地幸男さんは「カシマサマのお祭りがないのは寂しい」と残念そうでした。

それでも神事は例年通り行われました。菊地さんは「今年は自粛、中止でなく縮小。将来に向けて祭りのあり方を考えるきっかけになった」とおっしゃいました。来年こそはコロナが落ち着いて、祭りが盛大に行われることを願っております。

木下からほど近い 横手市平鹿町下鍋倉では同日の夕方から鹿嶋送り(鹿島流し)が行われました。こちらでは等身大の大きなカシマサマを有志で作り、それをワラ船の山車に乗せて集落を巡行します。

大人形のカシマサマの顔はねぶた風

こちらの行事の特色は何といっても巡行の際に演じられる迫力満点のお囃子!サンバを思わせるスピーディーかつリズミカルなお囃子に耳も心も奪われました。お世辞抜きに、これまでに見てきた秋田県内の祭り囃子の中で一番だと思いました。

アマビエの旗を持ったマスク姿の人形を作って奉納された方も

船が来ると、沿道から鹿島人形を奉納しに住民の方々が集まってこられます。個性的な人形がたくさん!鹿島人形は人形道祖神のカシマサマよりも自由な表現が見られるのが面白いところ。

町内の皆さんにお聞きしたところ、元々、小さな鹿島人形を集めて小勝田川に流す行事だったのが、昭和24年頃から大きな人形も制作するようになったとのこと。玄人はだしのお囃子は有名で各地のお祭りやイベントでも引っ張りだこのようです。

そしてこの日は湯沢市桑崎御返事(おっぺち)のカシマサマも作り替えが行われました。御返事の行事を取材するのは今年で3回目。2年前の取材は『村を守る不思議な神様2』で、昨年の様子はこちらで紹介しております。今回は木下と下鍋倉の取材の間に一度お邪魔し、夕方再び訪れました。(この日はさらに横手市末野のショウキサマにも用事があって行っておりました)

集落の中心部にある「かしま庵」で制作されたカシマサマ

御返事のカシマサマはこの夏、2度目の制作です。1度目は6月下旬、件の「首都圏のミュージアム」に展示するカシマサマの制作でした。その時の様子は後日改めて。

完成したカシマサマと一緒に写真を撮らせていただきました
ちなみに宮原が着ているのは「末広町のカシマサマTシャツ」です

朝から制作が始まったカシマサマはお昼過ぎに完成し、集落の中心部にある庚申塔の前に一度祭られます。今年のカシマサマはこの3年で一番イケメンに見えました。そして、夕方6時からいよいよ行事のクライマックスであるカシマサマの巡行がスタート。私が秋田県が誇る奇祭として愛してやまない行事です。一昨年と昨年の様子はこちら↓

「フー、フー」の掛け声と共に前後に揺れるカシマサマ

今年のカシマサマの巡行は新型コロナ感染予防のため規模を縮小して行われました。それでも村の各入り口で災いを追い払う「ガモツキ」は健在!こんなカッコいい悪疫退散の呪術は他にあるでしょうか。

御返事の鹿島祭りが終わった後、再び下鍋倉へ。暗い中でも巡行が続いていました。

夜8時、起点となっている鹿嶋神社の前でゴール。 下鍋倉には人形道祖神を立てる風習はないので、大人形のカシマサマのミッションはここで終了です。厄を背負ったカシマサマは山車から降ろされ、小勝田川の岸辺で燃やされました。2日間だけ祭られた後に川に流される下堀の鹿島送りのことを思い出しました。

川原で燃やされる大人形

カシマサマが燃えている間、宮原さんの姿が見当たらないので探してみると、山車の周りで続いているお囃子の演奏を呆然と聴いております。「あまりに素晴らしくて放心状態になっていました」とのこと。聴く者をトランス状態にさせるマジカルなパワーがこのお囃子にはあるようです。

秋田の夏恒例の鹿島行事。今年は新型コロナの影響で縮小を余儀なくされておりますが、「悪疫退散」の役割がより浮き彫りになったかたちで行われております。どうかこの祈りが届きますように!

そして何度もこのブログではさわりだけ紹介し、正式な発表がないため告知できていない「首都圏のミュージアム」での展示。おおよそはこの動画でご想像がつくかと思われます。この夏は取材よりも、こちらの展示に関する準備で走り回っておりました。9月中にプレスリリースされるということなので、詳細は今しばらくお待ちください。

Writerこの記事を書いた人

投稿者:小松 和彦
郷土史研究 小松 和彦
工芸ギャラリー・小松クラフトスペース店主 『秋田県の遊廓跡を歩く』(カストリ出版)、 『新あきたよもやま』(秋田魁新聞デジタル版) などを執筆。 http://www.komatsucraft.com/ Twitter @Komatsucraft