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にかほ市のサイノカミ行事を取材しました(3)

投稿者:小松 和彦 投稿者:小松 和彦 小松 和彦

③石名坂のアマノハギ(1月13日)

1月11日、横岡の小屋建て、赤石のアマハゲと立て続けに取材し、にかほ市の小正月行事にすっかり魅せられた我々ANP。次の取材予定は15日「横岡の小屋焼き」なのですが、その間にも来訪神やサイノカミの行事があるとのこと。居ても立っても居られなくなり、13日の午後、職場から宮原さんに電話しました。

「今夜は石名坂という集落でアマノハギというナマハゲに似た来訪神行事があるんですよ。行ってみませんか?」

宮原さんもお仕事中でしたが、ナマハゲの誘惑に勝てず・・・

「行きましょう!」

ということで、にかほ市へと直行しました。

石名坂の入口にはサイノカミを祭る石の祠があります。地面が黒ずんでいるところがサイノカミ小屋が建てられていたところ。

石名坂は横岡と同じく上郷地区にある集落。ここでもワラでサイノカミの小屋を建てるのですが、 アマノハギが行われる前に小屋を焼きます。石名坂に到着した時にはもう焼かれた後でした。

私たちの取材はいつも前もって集落の方に連絡し、許可を得てから出掛けますが、この日は急遽決めたので、連絡先を調べる余裕もなく突撃取材になってしまいました。ちょうど集会所にいらっしゃった長老の皆様にご挨拶し、事情を説明。ありがたいことにOKが出ました!

午後6時、男性5名が「朝鳥ホイッ、夜鳥ホイッ」と唄いながら村を練り歩きます。これは「鳥追い」と呼ばれる儀式。「昔は小学生の男の子がこれをやったんだけど、今は60歳以上だよ」とのこと。昨年、担い手が小学生から町内会の皆さんにバトンタッチした末野の鹿島流しを思い出しました。

「鳥追い」は集落を3周します。その途中、サイノカミの小屋を焼いた跡も3回周り、祠を拝みます。

最低でも90年以上は立っているというアマノハギの面。怖いです・・・

「あれ、アマノハギはどこへいるんだろう?」と思っていると、極秘の場所で支度中でした。石名坂では鳥追いとアマノハギのチームは「会ってはいけない」決まりになっているそうです。 アマノハギは3体。30~50代の男性がアマノハギに扮していますが、昔は中学生がやっていたとのこと。

準備が整ったところでアマノハギが家々を巡ります。大晦日に取材した能代のナゴメハギや2日前に取材した赤石のアマハゲでは先達(餅もらい)が玄関に来訪を告げてから家の中に入るシステムでしたが、ここでは「奇習」ならぬ「奇襲」。

音を立てずいきなり家の中に入り・・・

「ウォー!泣く子はいねがー」

「親の言う事聞いでるがー!」

お面の迫力も手伝って、なかなか恐ろしい来訪神です。アマノハギが身に着けているケラは古いものを作り替えずに着用しています。「昔の人のサイズに作ってあるから膝が出てしまうよ」という悩みを、後でアマノハギ様から聞きました。

終わった後は集会所で直会。私たちも中に入れていただき、貴重なお話をたくさん聞かせていただきました。「アマノハギ」という名前がどうもうまく出てこなくてまごついていると、ご本人たちから「ナマハゲでいいよ。俺たちもナマハゲって言っているんだから」と笑われました。

石名坂のアマノハギはサイノカミ、鳥追い、そして来訪神が一連となった小正月行事でした。私が以前、秋田魁新報のコラムで紹介した畠山鶴松翁の記録『村の落書き』によると、五城目町下山内では1月15日の夜にナマハゲ、翌朝に鳥追い、サイノカミの祭りが行われていたとあります。ナマハゲ(来訪神)とサイノカミ(道祖神)とが出会う行事は興味深いです。改めて、書籍などで詳しく紹介できたらと思っております。

次回、「にかほ市のサイノカミ行事を取材しました(4)」では1月15日に取材した横岡のサイノカミ行事をご紹介いたします。

Writerこの記事を書いた人

投稿者:小松 和彦
郷土史研究 小松 和彦
工芸ギャラリー・小松クラフトスペース店主 『秋田県の遊廓跡を歩く』(カストリ出版)、 『新あきたよもやま』(秋田魁新聞デジタル版) などを執筆。 http://www.komatsucraft.com/ Twitter @Komatsucraft