令和6年も残すところあとわずかとなりました。今年の秋田人形道祖神プロジェクトの活動は品川キヤノンギャラリーSでの展示から始まり、取材やトークイベントなど、充実した一年となりました。個人的には新潟、青森、茨城、山形など、秋田県以外の人形行事を取材できたことが大きな収穫でした。来年も積極的に県外へ出掛けてみたいです。
年が明ける前に11月の取材とトークイベントのご報告です。11月の最終週は今年のANPの活動の中で一番アクティヴに動いた一週間でした。

11月24日、仙北市神内の後村集落の人形道祖神・オニョサマの行事「念仏講」を取材しました。この集落では村はずれの2か所にオニョサマと呼ばれる人形の頭部が一体ずつ祭られています。この行事は元々12月9日に行われていましたが、20年ほど前からは人が集まりやすい11月の第4日曜日に催されるようになりました。冬が始まる前に、オニョサマの前で集落の人々が百万遍の数珠回しを行い、疫病が入ってこないように祈願する行事です。

11月28日、秋田公立美術大学で秋田人形道祖神プロジェクトによるスライドトーク&ガイドツアー「なまはげだけが秋田じゃない~人形道祖神×複合芸術」が開催されました。スライドトークでは、前半が私が秋田県内の代表的な人形立て行事の事例について、後半は宮原さんが形道祖神をアートとして表現する過程を紹介し、民俗行事を「複合芸術」の視点で捉えていくことの必要性についても言及しました。

スライドトークの後は美大構内に展示されている人形道祖神を巡りながら二人で解説。実は角川武蔵野ミュージアムから人形道祖神コレクションが秋田美大に寄贈された時からやりたかった企画で、この度ようやく実現しました。貴重なコレクションであることを再認識すると共に、制作されてから4年以上が経った今、作り替えや展示環境整備が必要になってきていることも感じています。
翌日から私たちは大館市でのリサーチへ。今年は29日に山田のジンジョ祭り、30日に神山の人形祭が開催されます。まずは「人形道祖神の聖地」こと山田集落へ。

今年のジンジョ祭りではジンジョサマの作り替えや巡行を行う集落はなく、「ぶっつけ」も無し。いつもは新しいジンジョサマがお目見えする赤坂常会でも、忌中で祭りに参加できない方が多く、神官さんによるお祓いのみでした。民俗行事の継続が、年々厳しさを増していることを実感しました。
山田では「ジンジョ祭りが終わると冬が始まる」と言われていますが、その夜、大館では今年初めて本格的に雪が積もりました。翌30日の神山は久しぶりの雪の中の取材となりました。

神山の人形道祖神・ニンギョウサマの巡行は昨年11月、大館市で開催された「新・秋田の行事」でも実演していただきました。ニンギョウサマの作り替えは約一か月前から青年会の皆さんの手でコツコツと進められています。30日は午前中に近くの杉林で杉の葉を採集し、それをニンギョウサマの腹へ詰める仕上げの作業を行います。前日とは比べものにならないほどの寒さで、お昼に宮原さんと市内の量販店で防寒具を買いこみました。

午後4時半からニンギョウサマの巡行がスタート。今年もリヤカーを引くのは若手のホープ・山本凜太郎さん。時折、雪が吹き付ける中でも決して音を上げることなく、黙々とニンギョウサマを先導します。

神山の人形祭の特徴の一つは巡行の途中で高齢者施設・神山荘への慰問があること。ニンギョウサマが施設にやってくると、入所している皆さんがお出迎え。青年会会長の山本秀人さんがお囃子の太鼓を演奏し、場を盛り上げました。この時、宮原さんが側溝に落ちて、背中から激しく転倒するというハプニング。しかし、背負っていた鞄がクッションとなり、大きなダメージを被ることなく済みました。ニンギョウサマのご加護でしょうか。

ニンギョウサマが周ってくると、沿道の家々からは住民の皆さんがお酒やキリタンポを持って参拝しに来ます。ここでは串がついたキリタンポをニンギョウサマの腹に差して奉納するのが習わし。こうして集まったキリタンポは、祭りが終わった後の直会でいただきます。

2時間超の巡行を終えて、ニンギョウサマは元の祠にお戻りになりました。最後のお囃子を奉納した後、参加者一同拝礼してお神酒をいただきます。山本秀人さんをはじめ、青年会の皆さんの熱意で続けられている人形祭。感動的なフィナーレで、令和6年の取材を締めくくることができました。
今回の山田と神山の取材の成果は、来春刊行予定の「複合芸術会議2024ガイド|ライン」の報告書に掲載する予定です。
ここからはお知らせです。
①「東北奇譚巡り」に寄稿しました

東北各地の道の駅に配布されているフリーペーパー『おでかけ・みちこ』。現在、最新版の「vol.51 2024冬号」に掲載されている「東北奇譚巡り第3回」を担当しました。「菅江真澄を驚かせた避疫神」と題して、小掛のショウキサマを取り上げております。現在、電子ブックでもご覧いただけます。
②令和7年1月24日(金)秋田公立美術大学でシンポジウム「人形道祖神と鹿島行事」開催。ゲストは神野善治先生!

11月28日のスライドトーク&ガイドツアーに引き続き、「複合芸術会議2024ガイド|ライン」の一環として1月24日に同会場で人形道祖神に関するトークイベントを開催します。今回はなんと、ゲスト講師として人形道祖神の名付け親である民俗学者の神野善治先生をお招きすることが決定しました!私にとっては尊敬してやまない師匠なだけに、今から感激と緊張が入り混じっております。
「人形道祖神と鹿島行事」
2025年1月24日(金)14:30-17:00
会場:秋田公立美術大学大講義室(講義棟A2階)※キャンパスマップはこちら
入場無料
※本学学生や教職員は参加自由。学外者で参加ご希望の方はメール(komatsucraft@gmail.com)、お電話(018-837-1118小松方)、こちらのフォームからお申し込みください。
・スライドトーク 14:30~
①「人形道祖神の発見」神野善治(武蔵野美術大学名誉教授、日本民具学会会長)
②「秋田県における人形立て行事と鹿島流しについての一考察」小松和彦(秋田人形道祖神プロジェクト、秋田公立美術大学大学院博士課程)
トークセッション
「鹿嶋祭と新屋」高橋伸(新屋鹿嶋祭保存会理事)、神野善治、小松和彦
イベントの詳細は年明けに投稿します。どうぞよいお年をお迎えください。