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ルチャの神様がやってくる!神山の人形祭り

投稿者:小松 和彦 投稿者:小松 和彦 小松 和彦

新年あけましておめでとうございます!本年も秋田人形道祖神プロジェクトをよろしくお願いいたします。

本来であればここで「今年の抱負」など述べるべきなのですが、昨年のうちに書いておこうと思っていたブログを数本、新年に持ち越してしまいました。というわけで、どうかごゆるりとお付き合いください。

神山のニンギョウサマ(2021年撮影)

秋田県内の人形道祖神の取材で一年の最後を締めくくるのは、山田のジンジョ祭り(大館市)か松峰の人形祭り(同)というのが、定番でしたが、実はまだ未見の行事がありました。大館市神山の人形祭りです。

神山集落の人形道祖神・ニンギョウサマ(ニオウサマとも)は、村の鎮守である諏訪神社の境内に祀られている男女一対の神様。大きさは等身大(男神158センチ、女神168センチ)で男神は刀、女神は長刀を持って立っていますが、何と言っても最大の魅力はその無国籍なお顔です。神野善治先生は著書『人形道祖神・境界神の原像』(白水社)の中で「これが日本の民間信仰の神だろうかと疑われるほど、ユニークな表情に造形されている」と書かれています。プロレスファンの私はメキシコの「ルチャ・リブレ(自由な戦いの意)」に登場する覆面レスラー(ルチャドール)にそっくりだと思い、親しみを込めて「ルチャ道祖神」と呼んでおります。一度見たら忘れられないそのお顔は、地元の長老によると「昔から全く変わっていない」のだそう。「人形道祖神ワンダーランド・大館市」の底力を感じさせる、超個性派カップルなのです。

制作途中のニンギョウサマ

ニンギョウサマは毎年11月に作り替えられ、完成すると町内を一周し、元のお堂に納められます。毎年、この「人形祭り」に伺いたいと思いながら、タイミングが合いませんでした。11月21日、山田集落の調査の合間に神野先生と宮原さんと一緒に訪れたところ、公民館には作り替え途中のニンギョウサマが。町内会長の畠山さんによると、11月の上旬から青年会の皆さんにより、毎週末に作り替えが行われ、祭りの日までに完成させるとのこと。2022年の「人形祭り」は12月3日。「今年こそは!」と取材をお願いさせていただきました。

最後の仕上げに取り掛かる青年会の皆さん

12月3日の午後1時半から、神山の公民館に青年会の皆さんが集合。ニンギョウサマのお腹に杉の葉を詰め込み、最後の仕上げを施した後、御神酒を酌み交わし、午後4時から巡行がスタート。青年会のリーダーである山本秀人さんによると、コロナ過により2020年から巡行を中止していましたが、今回3年ぶりに再開するとのこと。山田のジンジョ祭りに続き、こちらも記念すべき復活祭です!

専用のリヤカーに乗って町内を周る

みぞれ交じりの雨が降る中、20代の山本凜太郎さんが引くリヤカーに乗り、2体の神様は集落を巡ります。リーダーの秀人さんは太鼓を打ち鳴らしながら、後に続きます。途中、高齢者福祉施設に立ち寄り、入居者の皆さんから拍手喝采を受けることも。

御神酒をニンギョウサマに直接飲ませる

ニンギョウサマご一行がやってくると、沿道から住民の皆さんがお参りに出てこられます。基本はニンギョウサマのお腹にキリタンポとろうそくを刺し、御神酒を直接口元に流し込んで飲ませ、拝礼するというもの(松峰の人形祭りと共通します)。その後に御神酒をいただきます。
途中、リカちゃん人形を持った小さな女の子が驚いた表情で立っていたので、どうしたのかと思っていると、その子のお母さんが「人形祭りというから、自分も買ってもらった人形を持っていかなければ、って」と笑いながら言います。この取材の中で印象に残った微笑ましいエピソードです。

巡行を終えたニンギョウサマ

集落をくまなく回ること約3時間。午後7時にニンギョウサマは元のお堂に戻られました。冷たい雨が降る中、ずっと一人でリヤカーを引いていた凜太郎さんはお疲れの様子でしたが、「大好きだったおじいちゃんがずっとこの祭りに携わってきたから、この役は自分がやらなければと思っています。来年もやります!」と心強い言葉。地元の伝承行事を守り継ぐ青年会の皆さんの熱意に、心から感銘を受けた取材でした。

1月5日、神山の人形祭りがTVで放映される⁉

実は今回、NHK秋田放送局の取材班も同行しておりました。そして1月5日午後6時10分からのNHK総合「ニュースこまち」で放映される予定です(秋田県のみ)。神山の皆さんによると人形祭りがテレビで紹介されるのは、おそらく初めてだとか。ご視聴可能な方は是非ご覧ください。

Writerこの記事を書いた人

投稿者:小松 和彦
郷土史研究 小松 和彦
工芸ギャラリー・小松クラフトスペース店主 『秋田県の遊廓跡を歩く』(カストリ出版)、 『新あきたよもやま』(秋田魁新聞デジタル版) などを執筆。 http://www.komatsucraft.com/ Twitter @Komatsucraft