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西和賀町下前の人形送りを取材しました

投稿者:小松 和彦 投稿者:小松 和彦 小松 和彦

しばらくブログの更新が滞っておりました。秋田市内はすっかり雪が消え、春の訪れを感じております。

3月1日は岩手県西和賀町下前(したまえ)の「厄払い人形送り」を取材しました。秋田県横手市に隣接する西和賀町では、現在も白木野、左草(さそう)、下前の3集落で、村境に藁人形を祀る習俗が伝えられています。毎年1月〜3月にかけて、人形の作り替えを伴う「人形送り」が各集落で行われます。

西和賀町の人形送りを訪ねるのは、2000年2月に宮原さんと取材した左草以来となります。その際、秋田へ帰る前に訪れた白木野の藁人形の前で、今思い出しても恐ろしい、不可解な現象が発生しました。私の車のキーがインロックされ、さらに追い打ちをかけるように宮原さんのスマホがブラックアウト。実は、左草と白木野の間に立ち寄った町内の乳製品直売所「結ハウス」で、建物の前に立つ「日本一の藁人形」をちゃんと拝まずに後にしていたのです。それだけに、「人形様の罰が当たったのではないか」と二人で震え上がったのを、今でも鮮明に覚えています。

これ以降、結ハウスの前を通る機会があるたび、その藁人形に向かって手を合わせるのが習慣となりましたが、残念ながら昨年、撤去されてしまったそうです。

そんな強烈な記憶のせいというわけではありませんが、この地域の人形送りにお邪魔するのは、実に6年ぶり。例年3月第一日曜日に行われる下前の人形送りは、今年は3月1日が祭りの当日にあたりました。

午前8時頃から下前の集会所には集落の方々が一人、また一人と集まり、最終的に18名の皆さんで人形作りが始まりました。手足を作るグループ、シンボルを作るグループ、頭を作るグループなどと自然に分かれて和気あいあいと作業が進みます。役割分担は「暗黙の了解」。毎年人形を作り続けている村ならではの、見事なチームワークです。

パーツが出来上がってくると、いよいよ人形本体の組み立てです。下前の人形に使われるのは「ミトラズ(実とらず)」と呼ばれる、注連縄などに用いられる専用の藁。穂が出ないうちにバインダーで刈り取ったものだそうで、作業が進むにつれ、青々とした藁人形が徐々にその姿を現していきます。

藁人形は午前10時半過ぎに完成しました。高さは約90センチ。参加した皆さんは揃って拝礼した後、御神酒を酌み交わします。そしていよいよ、人形送りのスタートです。

人形送りは、集落の「上(西)」から「下(東)」へと巡行します。木貝と太鼓の音が響く中、藁人形は男性に肩車され、ゆっくりと進んでいきます。道路に雪はありませんが、それでも両脇には高い雪の壁が。これでも今年の積雪は、例年に比べれば少ない方なのだそうです。

集落のはずれにあたる寅沢地区まで辿り着いたところで、巡行は終了。ここで人形はナラの木にしっかりと結わえ付けられます。下前の人形送りでは、全てのパーツを新しく作り替えるのが習わし。そのため、一年間村を守り続けてきた先代の人形はここで役目を終え、静かに木の根元へと横たえられました。

ここで集落の皆さんは藁人形に団子を奉納して拝礼します。人形に供えられた団子はすぐ外して持ち帰ったり、その場で食べたりする方も。私も一個頂戴しました。この団子を食べると無病息災のご利益が得られるそうです。

人形送りは午前11時半に終了。その後、参加した皆さんは集会所に戻り、直会が行われました。私もお邪魔してお話を聞かせていただきました。

下前の人形送りは太平洋戦争によって一時中断したものの、昭和50年代に復活しました。そのきっかけは、集落で立て続けに不幸が起きたことだったといいます。これは、『村を守る不思議な神様』で紹介した能代市羽立のショウキサマや横手市下吉田高口のカシマサマのエピソードにも通じるもので、災厄を人形に託す人々の切実な願いを再認識させられました。

またこの集落は、奥羽山脈を挟んだ向こう側に位置する秋田県六郷町(現・美郷町)と古くから交流が深く、先祖が六郷から移住した家もあるそうです。昭和の初め頃までは、買い物をするために険しい山道を歩いて秋田側へ越えることもあったそうで、下前の皆さんの話し言葉も、どことなく秋田の仙北や平鹿の訛りに似ています。

現在、岩手県内で藁の人形道祖神が常設されているのは西和賀町の3集落だけですが、その背景には、こうした秋田県側との深い交流があったものと思われます。

下前の皆さんのご厚意のおかげで、久々の西和賀取材は充実したものとなりました。今回は、6年前のような不可解な現象に見舞われることもなく、無事に秋田へと戻ることができました。また、伺うことができればと思っております。

ここからは1月に開催したイベントのご報告です。

前回のブログでお知らせしていた「ヒトガタの変容 ―工藤千尋と人形の世界―」は、人形道祖神から現代美術、さらには世界の民族造形まで、多岐にわたる人形を一堂に集めた内容の濃い企画展となりました。沢山のご来場、ありがとうございました。

1月24日に開催されたギャラリートーク「ニンギョウをまつる、ヒトガタに託す」では、工藤千尋さんから現代美術における人形表現や、創作の背景にある想いなどを伺うことができました。とても示唆に富み、学びの多いひとときとなりました。

続く第2部の「私の人形を語る」では、参加者の皆さんからそれぞれの人生に寄り添う人形たちのエピソードをお寄せいただきました。「ヒトガタ」という存在の持つ奥深さを、改めて肌で感じる一日となりました。

展示の様子はカンデッコ上げの取材でもお世話になった元・仙北市長・門脇みつひろさんのブログでもご紹介いただいております。

今年は夏にも工芸作家の方々と共に人形道祖神に関連するイベントを小松クラフトスペースで企画しています。ぜひご期待ください♪

Writerこの記事を書いた人

投稿者:小松 和彦
郷土史研究 小松 和彦
工芸ギャラリー・小松クラフトスペース店主 『秋田県の遊廓跡を歩く』(カストリ出版)、 『新あきたよもやま』(秋田魁新聞デジタル版) などを執筆。 http://www.komatsucraft.com/ Twitter @Komatsucraft