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不思議な神様が大集合!「新・秋田の行事 in大館2023」(上)

投稿者:小松 和彦 投稿者:小松 和彦 小松 和彦

11月11、12の両日、秋田県大館市のニプロハチ公ドーム(通称・樹海ドーム)で開催された伝統芸能の祭典『新・秋田の行事』(『ハチ公生誕100年フェスティバル』との共催)。二日間で14,800人が来場したこのイベントでは、私たちが担当した「不思議な神様館」にも沢山の方に足を運んでいただきました。その様子をリポートいたします(イベントの概要についてはこちらにて)。

11月8日、宮原さんが大阪から秋田へ到着。展示する原画や、販売ブースに並べるグッズを梱包して、夜は我が家できりたんぽ鍋を囲んで最終打ち合わせ。『新・秋田の行事』のお話をいただいたのは今年の春。宮原さんと何度も大館市へ通い、準備を進めてきました。半年間、やるだけのことはやったので、あとは現地へ行くのみ!

11月9日、午前8時に秋田市新屋の秋田公立美術大学へ。「不思議な神様館」では今年3月に角川武蔵野ミュージアムから秋田美大に寄贈された「末野のショウキサマと鹿島船(横手市)」、「御返事のカシマサマ(湯沢市)」、「小掛のショウキサマ(能代市)」、「山田のジンジョサマ(大館市)」をお借りして展示します。この日の搬出作業にはいつもお世話になっている末野集落の皆さまに来ていただいた他、秋田美大の教員、職員の皆さまにもお手伝いしていただきました。

神様たちがユニック付きのトラックで運ばれていくのは今年の3月以来。今回の「不思議な神様館」の展示ができるのも、このコレクションが秋田に帰ってきてくれたから。何か不思議なご縁で結ばれているような気がします。

ご一行の出発を見送った後、私たちも大館市へ。お昼過ぎにドームへお迎えして、設営作業開始です。

末野のリーダー、斉藤繁さんの指揮の元、設営スタッフの皆さまの手でショウキサマが完璧な姿でお目見えしました。さすがはスタジアム級の人形道祖神、ドームにバッチリ映えます。これはすごい展示になる!と確信しました。

11月10日は午前中から大館市の3カ所の集落から実際に祀られている神様をお迎えしました。

まずお越しになったのは中羽立のニンギョウサマ。集落の3カ所に各1体ずつ祀られる人形道祖神です(詳しくは『村を守る不思議な神様・永久保存版』第3章にて)こちらの神様が村の外に出られるのは、神野善治先生が企画された『道祖神の源流展』(川崎市民ミュージアム)以来、約32年ぶり。

中羽立のニンギョウサマは毎年、初夏と秋に開催される「人形祭り」で衣替えが行われます。11月5日に開催された「秋の人形祭り」では、この展示に合わせて頭部と芯以外の部分をすべて作り替えたとのこと。御粧ししてお出でいただいた3体のニンギョウサマの神々しさは圧巻でした。

そして続いては小雪沢のドジンサマ。今から約200年前、菅江真澄が「避疫神」として記録した「古代スタイル」の道祖神です(詳しくは『村を守る不思議な神様・永久保存版』第2章にて)。私たちの書籍(自費出版の1巻と永久保存版)や本ウェブサイトの表紙になっている宮原さんの絵画はこのドジンサマをモチーフにして描かれたもの。オフィシャルグッズのTシャツトートバッグキーホルダーにも使われています。

ドジンサマが集落から外に出られるのはおそらく今回が初めてだとか。毎年初夏に表面をベンガラで塗り替えてしているものの本体は相当古いため、お迎えするのはさすがに緊張しました。普段は見られない男神と女神が2体並んだお姿は「不思議な神様館」の大きなみどころです。

そしてもう一カ所は神山のニンギョウサマです。昨年取材した神山の「人形祭り」では、神様のユニークなお姿だけでなく、行事を担う青年会の皆さまの熱意に感銘を受けました。

設営に来ていただいた神山青年会の山本会長によると今回ニンギョウサマが展示されるにあたり、男神、女神共に頭部を除いた体の部分をすべて作り替えたとのこと。魂が入ったばかりの「人形道祖神ワンダーランド」の真骨頂ともいうべき個性派カップルが立ち並びました。

テントの外には末野、小掛、御返事という大館市外の人形道祖神、中には市内4集落の神様が。まさにここでしかできない展示ブースが完成です。

テントの中では宮原さんが山田、中羽立、大森(大館)、末野(横手)で取材した内容を線画と文字で紹介したパネル展も。宮原さんはこのイベントのために54点の線画と3点のカラフル原画を新たに描き下ろしました。その仕事の膨大さで腱鞘炎になり、なんとか乗り越えて書き上げたそう。展示空間は宮原さんのデザインを設営スタッフの皆さまがカタチにしました。絵や文字からは凄まじい熱量が伝わってきます。

「不思議な神様館」の一画には中羽立のワラ編み名人・松崎市男さん(故人)の作品展も。これらのワラ細工は中羽立に打ち合わせで訪れた際に偶然拝見し、ニンギョウサマと一緒に展示させてほしいとご家族に申し出たことで出展が決まりました。作品の素晴らしさはもちろんですが、宮原さんの線画による解説が絶妙な役割を果たしています。民俗資料の展示手法としても斬新です。見ごたえのあるコーナーになりました。

そしていよいよ当日。今回のイベントはお客様に展示ブースを見ていただくだけではありません。ワークショップ、ギャラリートーク、そして「人形祭り」のデモンストレーションまであります。2023年、秋田人形道祖神プロジェクトにとって最も熱い二日間がスタートです。(続く)

Writerこの記事を書いた人

投稿者:小松 和彦
郷土史研究 小松 和彦
工芸ギャラリー・小松クラフトスペース店主 『秋田県の遊廓跡を歩く』(カストリ出版)、 『新あきたよもやま』(秋田魁新聞デジタル版) などを執筆。 http://www.komatsucraft.com/ Twitter @Komatsucraft