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道祖神ワンダーランド!初夏の人形祭り(清水川編)

投稿者:小松 和彦 投稿者:小松 和彦 小松 和彦

中羽立編からの続き)6月5日、午後1時からは大館市花矢地区清水川の道祖神・ニンギョウサマの行事です。清水川は中羽立のすぐ北にある集落で全19軒。村の南側に男神、北に女神のニンギョウサマが祭られ、毎年初夏と秋に作り替えを伴う「人形祭り」が催されます(※『村を守る不思議な神様2』では年1回の開催と紹介しましたが、2022年現在は年2回行われています)。

作り替えが行われた後、男性に担がれて村を巡行するニンギョウサマ(2018年撮影)

「小松さん、あれ何ですか!?」
宮原さんが指をさす。その先には、ニンギョウサマによく似た人形を背負った男性二人と数人の一団が歩いているではないか!頭がパニックになって、とにかく車を降りると、勢いの良い太鼓の音が聞こえてくる。慌てて駆け寄り、取材を申し込んだ。(『村を守る不思議な神様2』より)

前回(2018年)の取材は全く予定外でした。ニンギョウサマの一団に、宮原さんと興奮しながら駆け寄った時のことを鮮明に覚えています。お祭りのクライマックスには密着したものの、それまでの経過は未見だったので、いつか再取材したいと思い続けていました。今年ようやく念願かなって、行事の始まりから終わりまで取材させていただくことになりました!

首と胴体だけになったニンギョウサマ

午後1時、村の集会所に各家の代表者がお一人ずつやってきました。今年ご家族がお亡くなりになった家が3軒あったので、参加されたのは16名。まずは軽トラに乗ってやってきたニンギョウサマを解体します。中羽立では傷んだ部分と、履物(夏は草履、冬は藁靴)を取り換えていましたが、清水川は木製の頭部と芯と胴体以外は全部作り替えるのだとか。夕方までは完成しなければいけないのに、本当にできるのでしょうか⁈

指と「ゴンベ編み」を手掛けるチーム

指は女性チーム、手とベロ掛けの「ゴンベ編み」は男性チーム、絶妙なチームワークによってパーツが作られます。皆さん、誰かに指示を受けるわけでなく仕事が早い!これまで見た中では三ツ村のカシマサマに匹敵する名人揃いかも。

人形作り開始2時間後(午後3時)の状況

見る見るうちにニンギョウサマが出来上がっていきます。ベロ掛けの一回り小さいものがペアで作られているのを見て、いったい何だろうと思っていましたが、なんと「ふんどし」でした。清水川のニンギョウサマには性器がありませんが、2体共にふんどしを履いていらっしゃるのです。人形道祖神が下着を着用している事例は他にあったかな⁇

杉の葉を刺してからベロ掛けを付けて完成

人形作りがスタートしてから2時間半で2体共に完成。その技術力の高さに驚くほかありませんでした。「昔はもっと立派だったよ」とおっしゃる方がいましたが、今も十分ご立派です!

集会所に安置されたニンギョウサマ

完成したニンギョウサマは一度集会所へ。町内会長の中村弘美さんが太鼓を打ち鳴らすと集落の皆さんがお参りに来られました。巡行は今年3名の方が亡くなられたため、自粛することになったとのこと。「来訪する道祖神」の姿が見られないのは残念ですが、不幸が続いた時は賑やかにお祭りはできないという心配り。新沢の道祖神祭りでも同様の事例がありました。

ニンギョウサマの口に直接お酒を飲ませる参拝者

集落の皆さんが次々と参拝に来られます。奉納するのは「きりたんぽ」と「お酒」。お酒は直接神様の口元に注ぎます。そして神前から「シトギ」を2個いただいて帰ります。本来であればニンギョウサマが各家々にまわって来てこうした参拝が行われますが、この夏は集会所で執り行われました。

シトギをニンギョウサマの口におさめる

最後にシトギをニンギョウサマに食べさせて祭りは終了。魂が入った道祖神は「秋の人形祭り」までの約5か月間、清水川を見守ります。

鶏の出汁が香ばしいキリタンポ汁

祭りの後は直会。ニンギョウサマに奉納されたキリタンポを鍋にして皆さんでいただきます。ありがたいことに私も同席させていただきました。松峰の人形祭りや秋田魁新報・ハラカラ『道祖神と食の祭典』でも紹介しましたが、この地域ではキリタンポが「神と人とを繋ぐ」重要な役割を担っております。清水川のキリタンポも神々しいお味でした。
直会では、町内会長の中村さんをはじめ、集落の皆さんから雨乞いの「女相撲」や冬場の山仕事など、興味深いお話を沢山聞かせていただきました。これでようやく、清水川のニンギョウサマについて自信を持って紹介する事ができます。素晴らしい行事を体感させていただき、本当にありがとうございました!

今年は下斉内のオニョサマから始まり、今回の中羽立、清水川と4年ぶりの再取材が続いております。以前気付かなかったことを改めて発見できる、そんな醍醐味があります。思い返すと、2018年の今頃は右も左も分からないまま、「情熱」だけを頼りに無我夢中で走り回っていました。今回の取材では大きな空白の部分を埋めることができました。清水川の「人形祭り」についてはいずれ文章にまとめてみたいです。

再取材の旅は続きます。次はカリスマ的なリーダーがお亡くなりになった後、どうなっているのかずっと気になっていたこちらの道祖神。どんな出会いがあるのか、お楽しみに♪

Writerこの記事を書いた人

投稿者:小松 和彦
郷土史研究 小松 和彦
工芸ギャラリー・小松クラフトスペース店主 『秋田県の遊廓跡を歩く』(カストリ出版)、 『新あきたよもやま』(秋田魁新聞デジタル版) などを執筆。 http://www.komatsucraft.com/ Twitter @Komatsucraft