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【後編】企画展「ふくしま 藁の文化」を見に行く!~3日目+α

投稿者:宮原 葉月 投稿者:宮原 葉月 宮原 葉月

 11月4日は、ずっと楽しみにしていた福島県内の人形道祖神ツアー日です。福島県立博物館(以下、福島県博)の主任学芸員の大里さんにご案内いただき、県内の人形道祖神やワラ人形を見てまわりました。

【目次】
・福島県内の人形道祖神見学ツアーのレポート(3箇所)
・講演について
・佐々木さんと大里さんの思い

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 朝8時過ぎに会津若松市内の宿を出発。大里さんの先導で、最初に浅川町福貴作(ふきざく)地区のカゼブクロサマの元へ向かいます。

下のカゼブクロサマ

 福貴作(ふきざく)地区に入ると、急に風が冷たくなり体が冷えてきました。同地区には、下(しも)と上(かみ)にそれぞれカゼブクロサマがいらっしゃいます。下では、奥の2班(約20戸)と手前の2班(約20戸)とが、交互に1年ずつカゼブクロサマの制作を担当します。設置場所も担当班毎に異なります。(下は2か所あります)

 カゼブクロサマは「刀となぎなたで風を切り刻み、それを熊手でかき集めて飲み込んでしまう」という神様。台風や強風から田んぼを守ってくださいます。

 「令和元年の台風19号は、郡山市街を流れる阿武隈川を氾濫させるなど、県内に甚大な被害をもたらしました。福貴作地区沿いを流れる社川でも、田んぼに水が届くのではないかと心配だったと思います(※)。ここに来る途中、護岸工事をしていたでしょう。当時は『今年のカゼブクロサマの顔がやさしかったからでは』と言われていました」と大里さん。
※一部堤防が決壊したようです。参考:福島県石川土木事務所「令和元年台風19号の災害の概要」より

上のカゼブクロサマ

 上へ移動します。大きなケヤキの上にカゼブクロサマがいらっしゃいました。木を体に見立てるので、こちらはとても背が高い。命綱をつけて設置されるそうです。上でも、2班がそれぞれ1年おきに交代で作ります。下とは違い、場所は同じ。また泥棒を捕まえるためのワラを垂らしているのが特徴とのこと。

 「作り手の方にお話を伺ってみたいです」と大里さんに相談したところ、上(かみ)の班の我妻勝子さんをご紹介いただきました。(ありがとうございます!)

 インタビューは我妻さんのご自宅で行われました。にこやかな我妻さんがテキパキ、ときにふんわりとお話ししてくださいます。
 「カゼブクロサマのお顔には、蚕(かいこ)さんの『ワラダ』を使います」と我妻さん。「ワラダ」については、前日に大里さんにレクチャーを受けていたのですぐわかりました。

ざるのようなものが「ワラダ」。この中に桑の葉を入れ、蚕を飼育しました

 上(かみ)ではおよそ20年に一度、宿(当番)が回ってきます。宿は「ワラダ」を用意しなくてはなりません。「うちは、最近まで蚕さんをやっていた方に30個のワラダをもらいました」と我妻さん。ワラダを入手できない場合は、ホームセンターにあるような大きめのザルを代用します。(その場合はお顔が小さくなる)
 カゼブクロサマのお顔を描くのも宿の役目。先述の令和元年台風19号の件もありますから、かなり重要任務です。鉛筆で何度も練習し、ヨシ、となれば炭で本番を描きます。周囲の方に「あーだこーだ」言われながら描かねばならず、漫画みたいな顔になると残念、となるそうです。相当なプレッシャーですね・・・

 「福貴作の皆様にとって、カゼブクロサマの行事に対してどのような気持ちやお考えがあるのですか?嬉しいとか怖いとか・・・宿の準備は大変ですし・・・」と我妻さんに尋ねたところ、いささか語気を強められて「やんなくちゃいけないものです!」とおっしゃいました。「ばあばやじいじから(カゼブクロサマの)大切さを子どもの頃から聞いているので、村を守る気持ちと同じです」
 福貴作に生き続ける信仰を目の前にし、思わず心が震えました。

 戦後にカゼブクロサマを作るのをやめたところ、大きな台風がやってきて、お米が取れないことがありました。カゼブクロサマはすぐに復活。以降は豊作を願って作り替えが行われます。

 こうして、我妻さんに様々なお話を伺うことができました。この度は急なお願いにも関わらず、貴重な情報をありがとうございました。また、取材中には大里さんに的確なアドバイスを頂け、大変有意義な時間となりました。

 お次は、石川町中田の八又集落へ向かいます。江戸時代から続く行事「トシナハリ(年縄張り)」で作られる武者人形があるのです。が・・・!トシナ(年縄)や武者人形は既に地面に落ちていました。

博物館で展示されている武者人形

 トシナが自然に切れるまで、武者人形は村を守ってくださったのでしょう。大変お疲れさまでした。

屋形のお人形様をみるため、坂を登る小松さんと大里さん

 さあ、お次は田村市船引町のお人形様(屋形)へ向かいます。屋形では、坂道を登らないとお人形様を見ることができません。私には1つの懸念がありました。ツアーに同行されていた小松さんのお母さま・ミキコさんにも、屋形のお人形様を見ていただきたかったのです。しかし杖を忘れたミキコさんが、果たしてこの坂を登ることができるのか。

私の懸念は払拭されました。ミキコさんは、妹のマキコさんと一緒に坂を登っています
屋形のお人形様
粭田(すくもた)集落(5戸)と屋形集落(20戸)でお人形様を作ります。高さは約4メートル。こちらのリーダーは「末野のショウキサマづくりの斉藤さんのように熱い方ですよ。毎年1月に編み方の講習会が行われます」と大里さん。「鹿島人形づくりの講習会を本番前に開催する斉藤さんと同じだ。一度お会いしてみたい。」と思いました。

 ミキコさんも私たちも、お人形様と対面することができました。よかった!

 後日、ミキコさんとお電話でお話しする機会がありました。「私、あのとき坂は無理だと思って諦めるつもりだったの。だけど、宮原さんが『絶対見に行った方がいい』『ここまで来て勿体ないです』と言うから。もう会津には来れないと思うし、そうかな、と思って。妹(マキコさん)に引っ張ってもらったのよ。」「(お人形様は)秋田のものとはまた違う雰囲気だった。手が凄かった。見てよかったと思う」

 実は、旅の前に「最近の母は咳き込んだりし元気がないんですよ。まだ動けるうちに旅行に連れていきたい。これが最後の旅になるかもしれない」と小松さんが話していました。大好きなミキコさんに楽しい旅時間を過ごしてもらいたい、私もバックアップしようと思っていたら、日に日にミキコさんは活力を取り戻しはじめました。秋田へ戻ると「母はすっかり元気になっちゃいました」と小松さん。
 「日常と違うもの、見たことがないものを見るのはとても刺激的。80歳でも100歳でも、新しい経験は必要ね」とミキコさん。格言でした。

朴橋(ほおのきばし)のお人形様
明城と梅ヶ咲、 朴橋の3つの集落で作る。目と歯が金色

 この日に小松さんたちは秋田へ、私は埼玉へ帰らねばなりません。既に時刻は15時半過ぎ。そろそろ帰り支度が始まります。

 最後に、小松さんの希望で「三春庚申坂遊郭跡」(福島県田村郡三春町)に行きました。この地にはかつて5軒の妓楼があったそうです。写真は「島村楼」であった建物。大変ありがたいことに、こちらの建物を管理されている方のご厚意で、中を見学させていただきました。道祖神とはまた別の世界が広がり、その独特な雰囲気に圧倒されました。小松さんに「これは大変貴重なんですよ」など色々解説してもらい、とても面白かったです。

 こうして、この度の会津旅は終了。これから秋田へ戻る小松家の皆様とお別れです。「また会う日まで!」ミキコさんとマキコさんと抱き合いました。
 最後に、大里さんに郡山駅まで送っていただきました。大里さん、この度は2日間もご一緒させていただき、貴重なお時間の中、誠にありがとうございました。

講演について

https://twitter.com/hatsukimiyahara/status/1456018229420126208

 時間軸を少し戻し、道祖神ツアーの前日に行われた講演「神と人とをつなぐ藁の文化」をレポートします。
 この度の講演会場は、定員100名の立派な講堂でびっくりしました。そして、予想以上に多くの方々が、東京や新潟など他県のお客様も来られていたりし、思わず武者震いしました。

 今回準備したANPのスライド&トークは、前半は小松さんによる「人形道祖神の基礎知識」「山田のジンジョサマ」と「末野のショウキサマ」の行事の解説を40分、宮原が「末野集落のショウキサマ作りのリーダーのこと」を10分、それぞれお話ししました。

 小松さんがいつもの安定したトーンでわかりやすく解説してくれたので、私は「飛び道具」的なものを準備。テーマは「末野のショウキサマ」(秋田県横手市)づくりのリーダー・斉藤 繁さんのこと。3年にわたる密着取材で聞き取った言葉の数々、そこからみえてくる集落のリアルな部分や信仰の凄さをお話しさせていただきました。

 突拍子もないテーマだったかもしれませんが、視点を「人」へ切り替えることで、何かを感じていただけたら、と思いました。(これも小松さんのわかりやすい解説があるからこそ可能!)
 講演後に小松さんから、民俗学ご専門の方が「新鮮な切り口」だと楽しんでくださったそうですよとお聞きし、ご配慮満載のお言葉だと思うのですが、安堵感でいっぱいになりました。

 最後に行われた大里さんとのクロストークで、「これからANPはどこを目指していくのか」と直球の質問をいただきました。「同展のおかげで他県の人形道祖神の魅力を改めて知り、活動を秋田に限定してはいけないと思った。他の地域のことも知りたいし、秋田のことも知ってほしい。他県とのネットワークを築いていきたい」と回答させていただきました。
 人形道祖神の魅力を、より多様な切り口で知っていただく方法があるはず。私たちはさらに挑戦していかないといけない、と質問をきっかけにいろいろ考えさせられました。
 

佐々木さんと大里さんの思い

 最後に、お2人に伺った「思い」について、ご紹介いたします。

 ブログ会津編【中編】に登場された佐々木長生さん。33年前に開催された「境の神・風の神」展を企画されました。「当時と比べ、今はほとんどが作り替えをやめてしまっています」と佐々木さん。「県内外の多くの方に助けてもらいながら、(ワラ人形が)こうして残りました。当時は色々な意見がありましたが、思い切ってやれてよかったと思います」とお話ししてくださいました。

 また他県での調査は、現地の博物館の協力があったから可能だったそうで、「博物館のネットワークは大切です」としみじみお話しされました。

 当時の展示に、民俗学者の神野善治さんがご家族と福島県博物館にいらしたそうです。「神野さんの娘さんも私の娘と同い年なんです。今ではお互いに大きくなったので、懐かしくなりますね」と33年前のことを思い出す佐々木さんは、とても嬉しそうでした。

 「当時ワラ人形を制作してくださった方々は、ワラ人形が福島県博にあることをご存知ないと思うので、この展示を通じて知っていただけたら」と大里さん。「ワラ人形をそれぞれのふるさとに貸し出したい。こんなに素晴らしいものが地元にあるのですから、地元の皆さんは見逃さないと思います。ワラ人形の貸し出しを通じて、ネットワークを繋げていきたい」

 また「この度の展示で何か思うことはありますか」と尋ねたところ、「予想外の方の反応があったりし、様々な方とつながることができました。ワラ人形を見に来る方は、土着のものや民間信仰に興味がある方だと思いますし、今回はしめ飾りなどのワラ細工も展示したので、けんだい(※)のミニチュアが持ち込まれることもありました。展示室は出会いの場なのです。」と大里さん。
※渦巻き型のしめ飾り

 そして、今後の抱負についても尋ねてみました。「7年前から同展の構想をスタートしました。展示は始まりです。今回集めたものを、これからじっくり調査していかなくては」とのことでした。

 「ふくしま 藁の文化」展では、多くの方々の33年分の「思い」が詰まっていることをしみじみ感じました。そして新たな「思い」が、大里さんをはじめ、展示に携わった皆様によって紡がれていくのでしょう。30年後の人形道祖神の世界は、果たしてどんな風になっているのか、みてみたいと思いました。

 

 この度は長文をお読みいただきありがとうございました。僭越ながら同展を楽しむANP的おすすめ方法をご紹介します。「福島県博の展示を最初に見る」「できれば学芸員さんのガイド付きツアーに参加し、たくさん質問しイメージをふくらませる」「そして実際の人形道祖神やワラ人形を見てまわる」、です。福島にとどまらず、山形や新潟などで今も生き続ける人形道祖神もみてみたいですね!
 企画展「ふくしま 藁の文化」は今月19日まで。この機会を逃すと、当面(30年くらい?)はみることができないので、要チェックです!!!

「ふくしま 藁の文化~わらって、すげぇんだがら~」

期間 /令和3年10月9日(土)~12月19日(日)
「学芸員による見どころ解説」でご覧いただくのもおすすめ。解説ツアーの日時は次の通りです。→12月4日(土)・11日(土)・18日(土)・19日(日)、各回とも13:30~14:00
会場 /福島県立博物館 企画展示室
〒965-0807 福島県会津若松市城東町1-25
料金 /一般・大学生 800円(20名以上の団体:640円)、高校生以下無料
休館日 / 毎週月曜日
開館時間 /9:30~17:00(入場は16:30まで)
主催 /福島県立博物館

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投稿者:宮原 葉月
イラストレーター 宮原 葉月
広告・書籍・雑誌でイラストを描く。 「LOWELL Things」(ABAHOUSE)とのコラボバッグ、 シリーズ累計49万部「服を買うなら捨てなさい」(宝島社) 装画等を担当。 http://hacco.hacca.jp Twitter @hatsukimiyahara