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年末年始のダブル取材は想定より過酷な旅に

投稿者:宮原 葉月 投稿者:宮原 葉月 宮原 葉月

昨年末のANP事務所にて。
小松さん「宮原さん、年末年始は来訪神&人形道祖神のダブル取材が入ります。元旦の明け方に帰ってきます」
私「えええ!? 夜通しの取材だなんて大丈夫ですか!?」

「村を守る不思議な神様2」では「ナマハゲ」「アマハゲ」等の来訪神行事について触れていますが、私たちはまだ見たことがありません。そこで、年越しに行われる様子を取材させていただこうと、能代市浅内で行われる「ナゴメハギ」の取材アポイントを取りました。

12月31日、ナゴメハギの行事は17時から準備が始まり、18時から巡行がスタート。私たちは15時過ぎに秋田市を出発、北上して能代市へ向かいました。
昨年の秋田は例年に比べ雪が少なかったのですが、年末年始に大寒波到来の予報が出ており、果たして無事に帰ることができるのか、少し心配でした。この時点でどんどん雪が降ってきます。

https://twitter.com/hatsukimiyahara/statuses/1211911230203367424

17時頃、浅内自治会館に到着。浅内地区は能代市街から車で約10分ほど、閑静な住宅街といった雰囲気です。
中に入ると今までの取材とは違い、若い男性がたくさんいらっしゃいます。
会長さんも30歳ほどでしょうか、精悍なお顔をされとても若々しい。

会長さんの勧めで「ナゴメハギ」について録画されたドキュメンタリー番組を拝見しました。以前は 浅内・中浅内・黒岡・寒川の4地区で行われていたそうですが、今は浅内だけ。なぜ浅内だけ続いているのか、その理由がとても気になります。
ビデオをみている間も次々若い男性が会場にやってきて、着替えていきます。

今回、ナゴメハギは「上」「中」「下」の3班に分かれて浅内集落を巡ります。男性陣は7枚のケラを身に着けます。各班のリーダーは加えて犬の毛皮を羽織ります。

足に付けるケラを外したまま、神社に向かいます。(境内では正座になるため)神社でお祓いを受け神様になります。

お祓いが終わると、ナゴメハギ達が外に並び雄叫びをあげます。これから巡行スタート!この時点で外は真っ暗、雪は真っ白に積もり、急激に寒くなってきました。

「ANPさんは『中』の班と一緒にまわって!」と会長さん。
ここから3班に分かれ、担当地区へ向かいます。

中班はナゴメハギが4名、先導役(餅もらい)の少年が1名、合計5名で構成されます。最初に少年が家に入り「お晩です、ナゴメハギです」と声を掛け、家の人にあがってよいか伺いを立てます。迎え入れるお宅は全体の約20%、玄関付近だけの場合は約30%、残り半数は残念ながら引き返します。

2、3軒をまわった頃、先導役の少年に「今日は何軒をまわるのですか」と尋ねました。あと約60軒!頭が真っ白になりました。

夜が更けていくについれ気温がグッと下がります。恐ろしいほどに冷たい風が吹いてきて、積もった雪が舞い、あたかもブリザードのような風景が続きます。最後の方は手の感覚がなくなってきて、小松さんが「スマホが指に反応しなくなりました!」と言うほどに。

暖かい格好をしているはずの私はつい弱音を吐いてしまいますが、ナゴメハギの皆さんは軽装でもっと寒いはず。雄叫びを上げて家々に入っていく為体力も消耗しているはず。それでも、覇気をずっと失わない彼らの姿に圧倒され続けました。(ちなみにナゴメハギは神様ですので、気軽に話し掛けることはできません。)

私たちもナゴメハギと一緒に家々にお邪魔させていただくこともあり、彼らを迎える家々の様子や風習も取材させていただきました。子ども達が怖くて泣き叫ぶ様子や、お寿司やピザ等をナゴメハギに振る舞う様子が印象的でした。

まもなく「中」班が担当分を終える頃、「『上』班のペースが遅れている」という情報が入り、お手伝いに向かうことに。見事なチームワークです。

夜22時前、スタート地点である自治会館に戻ってきました。「上」や「下」班も続々帰還。お面やケラを取り外した男性たちは「人間」に戻っていきます。「最後まで残った取材は初めてだ」と皆さんに言っていただきました。

なぜ浅内にだけナゴメハギ行事が続けられているのか。
正確な答えはわかりませんが、ずっと同伴させて頂くと、うっすらみえてくるものがあります。彼らが元気なうちは大丈夫、と思いました。
過酷な行事を終えたみなさんは、これから直会を始めます。
「かんぱーい!」
やりきった清々しさを感じました。

今回の行事を取材させていただき、個人的に「心の迷い」や「煩悩」が消えていくような時間に感じました。以前登山初心者として槍ヶ岳を登ったことがありますが、そのときの感覚に近いかもしれません。

夜22時過ぎ、浅内のみなさんとお別れし、次の取材先へ向かいます。下記写真はその時の様子。雪がだいぶ積もりました。

お腹を空かせた私たちは、レストランを探すことにしました。大晦日の22時過ぎに、大館市で空いているお店なんてあるのでしょうか。

ありました!「すき家」です。
注文したカレーは少しぬるかったですが、天国のように感じました。腹ごしらえをします。

昨年夏に取材させていただいた大館市粕田にやってきました。粕田の年越し道祖神行事・ベットウを取材するためです。
ちなみに昨年夏に取材させていただいた時の様子はこちら

夜0時頃、粕田に到着すると、入口で火をおこしていました。
「ニンギョウサマだ!」
祠の前で少年とその家族の皆さんが番を務めます。温かい昆布茶を頂きました。
ついさきほど取材した来訪神行事と比べると、ほんわかした雰囲気で心が和みます。 奥にある女神にもご挨拶。

おしゃれな若い男性(20歳位)がいらしたので声を掛けてみました。「粕田出身で、今は埼玉に住んでいます。この休みに実家に戻ってきて、ベットウをみないと変な感じがするので見に来ました。(ベットウが)体に染み付いているような感じです」とのことでした。

台湾から来られた方に英語で取材する小松さん。
私「小松さんの顔がとても迫力があるように撮れました」
小松さん「ナゴメハギの影響を受けていますね」
ナゴメハギのお力は計り知れません、、、

最後にすぐお隣の中羽立へ寄りました。

さあ、これで今回のダブル取材は終了!
急に名残惜しくなり「本当に帰っていいのですか!?」と私が言うと、「もう帰らせてくださいっっ」と小松さん。夜中の2時近くになっていました。

https://twitter.com/hatsukimiyahara/statuses/1212056543031521280

帰り道はブリザードが凄かったです。二ツ井付近の橋では強風で少しハンドルが取られました。しかし秋田市内に近づくに連れ、雪は穏やかに変わっていきました。
明け方3時半頃、秋田市内に到着。出発時とはうってかわって銀世界が広がっていました。

あけましておめでとうございます
今年もANPは精力的に活動してまいります
どうぞよろしくお願いいたします

Writerこの記事を書いた人

投稿者:宮原 葉月
イラストレーター 宮原 葉月
広告・書籍・雑誌でイラストを描く。 「LOWELL Things」(ABAHOUSE)とのコラボバッグ、 シリーズ累計49万部「服を買うなら捨てなさい」(宝島社) 装画等を担当。 http://hacco.hacca.jp Twitter @hatsukimiyahara