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2025年も熱い!カシマの夏(上)

投稿者:小松 和彦 投稿者:小松 和彦 小松 和彦

しばらくブログの更新が滞っておりました!今年の夏は原稿の執筆や取材で慌ただしく、あっという間に過ぎ去っていくような気がします。取材の様子は秋田人形道祖神プロジェクトのXInstagramFacebookで随時更新しておりますが、ブログでも2回に分けて一挙にご報告させていただきます。

6月1日の濁川の虫送りの取材ではイラストレーターの佐々木ゑびすさんと久しぶりにご一緒しました。その際、佐々木さんから6月22日に大仙市神岡の関金(関口、金葛)地区で鹿島流しを行われるという情報をいただきました。関金には2021年に宮原さんとオニョサマの取材で一度訪れたことがあります。祭りの二日前の6月20日にカシマニンギョウ作りが行われるということで、まずはその日にお邪魔しました。

午後1時、集会所に関金地区の自治会の皆さんが集まって、人形作りが始まりました。こちらのカシマニンギョウの本体は藁で作られます。事務局長の斉藤昌昭さんによると、かつてこの地域一帯では鹿島流しが盛んに行われていましたが、90年代にすべて途絶えました。そして2010年代に入ってから、斉藤さんたちが中心となって復活させたそうです。「こうした催しがあるから住民同士のつながりが深いですよ」と斉藤さん。午後5時過ぎにはすべて完成し、直会になりました。

6月22日、いよいよ鹿島流し当日。午前8時に集落の裏山(小沢山)にメンバー7が集まり、舟作りがスタート。雑木林の木を伐って、舟を組み立てます。完成後、集会所隣の公園に舟を設置し、そこへ20日に制作したカシマニンギョウを乗せます。その姿は壮観でした。

参加者はお神酒を上げてカシマニンギョウに拝礼。記念写真を撮った後は、再び山に持って行き自然に返します。本来は玉川に流していましたが、数年前にある役所から勧告を受けて流せなくなったとのこと。鹿島流しは昭和40年代、環境保全の名目で役所から指導を受け、やめてしまった事例がいくつもあります。人々の厄を払うヒトガタをゴミと同一視し、復活したばかりの伝承行事をやめさせようとする行政指導が今も存在することにやるせなさを感じました。そうした中でもこの行事を続けたいという関金の皆さんの想いには頭が下がります。昔ながらのカシマニンギョウと鹿島舟作りはこれからも続いて欲しいです。

秋田県外で「鹿島流し」として人形送り行事が行われているのは、青森県深浦町の旧岩崎村にある3集落(大間越、黒崎、松神)です。拙稿「秋田県における人形立てと鹿島流しについての一考察」では、深浦に鹿島祭りが伝えられている要因として、18世紀にこの地で頻発した地震があるのではないかと推測しました。一度は秋田県外の取材したいと思っていたところ、濁川の虫送りでご一緒した岩手県在住のNさんからご縁をいただき、6月28日「春日祭」と呼ばれる大間越の鹿島流しに初めて伺いました。「海の鹿島行事」を取材するのは2021年の男鹿市北浦「鹿島祭」、2023年の八峰町浜田の「鹿嶋祭」に続いて3回目です。

大間越の会館へ到着するとカシマニンギョウと船が既に置かれていました。人形は全部で7体で頭は木製、本体藁で着物を纏っております。6月中旬から保存会の方々がほぼ毎日集まって準備されてきたとのこと。船は丸太を加工したもので、かつて日本海を行き交った北前船を思わせる手の込んだ作りです。

午後12時半頃から会館に祭りの参加者が集まり、神事がスタート。そして、いよいよ巡行が始まります。保存会会長の蛯名さんが務める「先振り」を先頭に、太刀棒を持った「太刀振り」、そして、鹿島船とお囃子が続きます。先振りの「エイヤ!」という掛け声に合わせて、太刀棒を叩き合うことも。これは「農作物を荒らす虫や悪い病気を払う」意味があるのだとか。「太刀振り」は津軽の虫送り行事で多く演じられていることから、大間越の鹿島流しには津軽と秋田双方の文化が混在していることが伺えます。巡行中に披露されるお囃子や「太刀振り」の踊りなど、芸能の完成度の高さには驚くばかりでした。

午後4時過ぎ、鹿島船は港で漁船に乗せられました。私も特別許可をもらい同乗させていただきました。鹿島船は港で3周してから沖合へ。そこで大間越の人々の厄を託されたカシマニンギョウは「さいはての地」へと流されていきました。かつて大間越の鹿島船は北海道の室蘭まで流れ着いたことがあるそう。古くから鹿島船が漂着した土地では、カシマニンギョウを「福の神」として祭る信仰があります。その一方で、「大間越に戻って来ることは禁忌」とされ、万が一そうなった場合は「密かにまた流さなくてはならない」とのこと。船を流したのは港から3キロほど離れた沖合でしたが、これには一度流した厄が再び戻ってこないようにという意味が込められているのかもしれません。

大間越は秋田県境から約7キロ。弘前市や五所川原市よりも能代市の方が近く、さらには青森市よりも秋田市の方が近いので、秋田県内にお勤めの方も多く、地元の皆さんの話し言葉もほぼ秋田弁でした。ここに鹿島行事が伝承されていることにも合点がいきます。秋田の鹿島流しと津軽の虫送りとが融合した大間越の「春日祭」は、まさに文化が交差する境界の地ならではの祭りでした。

ここからはお知らせです。

「アマゾン資料館コレクション展」開催中(8/23まで)

2020年、山形県鶴岡市の致道博物館で開催された「山口吉彦アマゾンコレクション~ともに生きる森」を宮原さんと私の家族の4人で観に行った時のことを、以前このブログで紹介しておりました(こちら)。そして現在、小松クラフトスペースでは山口先生が世界中で集めたコレクションを展示する企画展を開催しております。今回はタイ・チェンマイにある「バーンロムサイ」のプロダクツと一緒に展示するということで、東南アジアの山岳民族・アカ族が村の入口に結界として建てる門と、そこに祀られる男女一対の木像も出展しております。日本の鳥居や人形道祖神とよく似た信仰形態でとても興味深い資料です。

8月11日(月・祝)には山口先生の講演会も開催。展示してるアカ族の門と人形については私が解説をさせていただきます。是非奮ってご参加ください。

◆山口吉彦講演会「アマゾンに魅せられて
会期:8月11日(月・祝) 午後1時半~ 
料金:1,000円 要予約、お電話(018-837-1118)またはこちらのフォームからお申し込みください
会場:小松クラフトスペース
 40年以上、南米をはじめ世界85カ国を旅してきた文化人類学研究者・山口吉彦さん。これまでの軌跡とアマゾンの魅力についてお話します。吉彦さんの息子で現在、アマゾン資料館代表理事の考彦さんも登壇します。小松店主による東南アジア山岳民族の「境界のまじない」の話も。

Writerこの記事を書いた人

投稿者:小松 和彦
郷土史研究 小松 和彦
工芸ギャラリー・小松クラフトスペース店主 『秋田県の遊廓跡を歩く』(カストリ出版)、 『新あきたよもやま』(秋田魁新聞デジタル版) などを執筆。 http://www.komatsucraft.com/ Twitter @Komatsucraft