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鹿島大明神のお導きか!?玄生のオオスギサマの行事を取材しました

投稿者:小松 和彦 投稿者:小松 和彦 小松 和彦

ブログの更新がしばらく滞っておりました。最新情報は随時SNS(XInstagramFacebook)でUPしていますが、重要な取材や告知に関しては、こちらで詳しく紹介していきたいと思います。今回はひと月分のブランクを埋めるべく、ボリュームたっぷりの内容でお届けします。

昨年のゴールデンウィークは家族で初めて車中泊の旅行に出かけました。3泊4日で岩手から宮城を周り、車中泊の効率の良さに気付きました。そして今年のGW後半はいつか必ず参拝しなければ、と思っていた茨城県の鹿島神宮へ。ここを折り返し地点にして、4泊5日で往路復路のあちこちを周るという行程です。

旅4日目の5月5日、鹿島灘から昇る朝日を拝みました。秋田では太陽が海に沈むので、海からの日の出は新鮮でした。夜明けから動けるのが車中泊旅の醍醐味。家族の起床と共に出発です。

この日は鹿島神宮へ行く予定でしたが、その前に一カ所立ち寄りたい所がありました。神野善治先生の『人形道祖神ー境界神の原像』(白水社)にも取り上げられている鉾田市玄生(くろう)の人形道祖神・オオスギサマ(またはテングサマ)です。赤い面に全身を杉の葉で覆うその姿は、能代市小掛のショウキサマや大館市新姥沢のニンギョウサマを彷彿とさせます。

午前5時半、鉾田市烟田の玄生集落に到着。オオスギサマは村はずれの繁みの中に祀られていました。高さは170センチほど。全身の杉の葉は古くなっており、しばらく作り替えていない様子がうかがえます。

集落の方からお話だけでも聞きたいと思い、ゆっくり車を走らせていると、一人の男性が歩いてきました。すぐに車から降りて、ご挨拶。オオスギサマを見に来たことを告げて、作り替えの予定は無いのか聞くと、男性は驚いた様子で、
「今日これからやりますよ!」
とおっしゃいます。一瞬、耳を疑いました。過去のリサーチでもこんな奇跡的なタイミングは無かったでしょう。取材をお願いしたところ、快諾していただきました。

男性の名前は鬼沢善広さん。鬼沢さんによるとオオスギサマが立っている場所はかつての集落の入口で、疫病が入ってくることを防ぐための祀られているとのこと。「あんばさま」の名称で知られる稲敷市の大杉神社から勧請したと伝えられ、「目の神様」としても信仰を集めているそうです。

作り替えの行事は午前8時から始まるので、それまでの間に念願の鹿島神宮を参拝することに。オオスギサマから神宮までは車でおおよそ40分です。

鹿島神宮では朝日を浴びる厳かな杜の雰囲気に圧倒されました。こんな巡り合わせで「人形立て」を取材できるのは、鹿島大明神の「もっとカシマサマを研究しなさい」というご神託なのではないか。そんなことを妄想しながら、感謝の気持ちをこめて手を合わせました。

午前8時、いよいよオオスギサマの作り替えが始まりました。まずは古くなった杉の葉を取り除いていきます。人形の本体はクヌギの木の幹。そこに湾曲したパイプを渡して腕に見立てています。藁を巻き付けて肉付けすると、採ってきたばかりの杉の葉を刺しこんでいきます。

現在のお面はブリキ製ですが、20年前ほど前までは編組品の「箕(み)」で作られていたとのこと。よく見ると今のお面も箕のかたちをしています。オオスギサマの作り替えに合わせて、お面も塗り替え。最後の仕上げを担当するのは区長の井川英信さんです。

「面を乾かしている間にもう一つやることがあります」と井川さん。奇数月の第一日曜日に玄生の皆さんが集まって行う「おこしんさま(お庚申様)」が、これから始まるのだとか。庚申講のお祭りを実際に見るのは初めてなので、ドキドキしながら拝見しました。

作り替えに参加している方々が、次々と集会所に入っていきます。一同集まったところで青面金剛が描かれた掛軸が下ろされると、「おこしんさまに、礼!」という合図と共に皆頭を下げます。すぐに掛軸が外されて、「おこしんさま」は終了。もしかすると「塩嶺御野立記念祭」を上回る「日本一短い祭り」かもしれません。

「おこしんさま」の後は寄合で、これからの村の行事などについて話し合われました。オオスギサマについては、年々行事の継続が難しくなっており、今後は中止も含めて検討しなければいけないとのこと。秋田と同様、人形道祖神を取り巻く環境は厳しさを増しています。

寄合の後は、オオスギサマの仕上げに向かいます。お面と二本の刀を付けた後、御神酒を人形の周りに撒いて捧げます。かつては新しいオオスギサマの前で太鼓と唄のお囃子を奉納し、近くにある新宮神社まで周って歩いたそうです。お囃子は鹿島神宮に伝わる祭頭(さいど)囃しとほぼ同じだったそうで、鹿島信仰の影響が伺えます。

この行事は以前、2月、5月、8月の第一日曜日に行われていましたが、コロナ禍後は2月だけになっていました。しかし、今年は2月の予定日の天候が悪かったため、5月に順延したのだとか。やはりこれは鹿島大明神のお導きなのかもしれない、と思いました。

最後は私の家族も入って、オオスギサマの前で玄生の皆様と一緒に記念撮影。この後、鬼沢さんには新宮神社もご案内していただきました。突然の訪問にも関わらず、行事を見学、取材させていただいた玄生の皆様、本当にありがとうございました。

この旅では他にも石岡市井関の人形道祖神・オオニンギョウや、各地の博物館など、興味深い場所をたくさん訪ねてきました。しかし、何と言ってもオオスギサマの人形立てを見られたことは、貴重な経験でした。今年は新潟県阿賀町のショウキ祭りに始まり、青森県六ケ所村出戸の百万遍行事、そして玄生と秋田県以外の人形道祖神を取材する機会が続いています。昨年のリサーチは「おらほのカシマ」がテーマでしたが、2024年は「遠くのカシマ」。県外の人形立てや人形送り行事と比較対照することで、秋田の人形道祖神の解釈が広がってくるのではないか、と思っています。

ここからはお知らせです。

①新潟・阿賀のショウキ祭りをゆく(全6回)完結しました

「秋田魁新報電子版」での私のコラム「新あきたよもやま」で連載していた『新潟・阿賀のショウキ祭りをゆく』がこの度完結しました。各章の概要は次の通りです。

(1)遠く離れたつながり 行事の存続が危機的状況にあることが報じられた阿賀のショウキ祭り。今年、開催されるのは2カ所だけに。
(2)会津の気風 熊渡の「宵宮」へ。人形道祖神の行事には珍しい「護摩祈祷」が行われる理由とは。そして堂内には秋田県出身が寄進した額が。
(3)熊渡のショウキ祭り ショウキサマ祭りは「心の神様を作る」行事。佐藤修司さんの言葉は人形道祖神とは何かを改めて考えさせられました。
(4)川で半分、山で半分 夏渡戸のショウキ祭りを人形作りから密着取材。映画『阿賀に生きる』の中で印象的だった冒頭のシーンンが蘇ります。
(5)人口減少社会の中で 官民学一体となった取り組みでも止められない民俗行事の減少。「自分たちでできなくなったら終わり」という武須沢入の長老が言葉が重く響きます。
(6・最終章)村のアイデンティティ 現在6軒の夏渡戸集落で毎年行われているショウキ祭り。「最後の一軒だけになっても作る」という江花一実さんの言葉に、長年伝えられてきた信仰のチカラを感じました。

以前、NHKBSプレミアムの番組に出演した際に「人形道祖神は私にとって秋田県人としてのアイデンティティ」と話した場面が放映され、「こんな事を勝手に言って大丈夫だったかな」と不安になりました。しかし今回、夏渡戸集落のリーダーが「村のアイデンティティ」とおっしゃられたのを聞いて、「間違いではなかった」と胸を撫でおろした次第です。

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②『秋田怪談 』刊行記念「奥羽奇譚会」開催します

昨年9月に開催され、大好評をいただいた小松クラフトスペースでの怪談イベント第2弾です!今回はなんと2DAYS。話題作『秋田怪談』(竹書房)の刊行記念ということで、秋田ネタを存分に披露していただきます。当日、会場では私が世界中から集めた呪物の展示コーナーも。だいぶ埋まってきておりますが、まだお席がございますので、是非お申し込みください♪

特別企画 『秋田怪談』刊行記念・奥羽奇譚会
出演:黒木あるじ(怪談作家)、鶴乃大助(怪談作家)
司会:小松和彦(秋田人形道祖神プロジェクト)
・陰の部 6月29日(土)午後18:30~
・陽の部 6月30日(日)午前10:30~
各回入替/開場はどちらも開演30分前
会場:小松クラフトスペース
料金:2,500円(小中学生1,000円)
要予約(お申し込みはお電話、またはご予約フォームにて)

黒木あるじ
1976年、青森県生まれ。山形市在住。2009年、怪談専門誌『幽』主催「怪談実話コンテスト」にて「ささやき」で特別賞を受賞。2010年に『怪談実話 震』でデビュー。現在までに40冊以上の怪談実話本を発表している。単著に『無惨百物語』シリーズ(KADOKAWA)、『山形怪談』(竹書房)ほか、『春のたましい 神祓いの記』(光文社)、『掃除屋 プロレス始末伝』、『小説版ノイズ』(ともに集英社)など小説も執筆。

鶴乃大助
1972年、青森県生まれ。青森県弘前市を拠点に怪談イベントの開催や怪談書籍の執筆をおこなう『弘前乃怪』メンバー。共著に『秋田怪談』、『青森怪談 弘前乃怪』、『奥羽怪談』、『奥羽怪談鬼多國の怪』、『青森の怖い話』(ともに竹書房)。DVD『怪奇蒐集者(コレクター)シリーズ』 「弘前乃怪スペシャル」などにも出演。

現在、黒木あるじさんの新刊小説「春のたましい・神祓いの記」を読んでおります。コロナ過で祭りが中断したことにより、怒り出した神々を鎮めるというストーリーで、座敷わらしや人形送りなど、東北の様々な民間信仰がベースになっています。当日、私も司会進行と共に少しお話もさせてもらう予定ですが、この本のエピソードからこれまで取材した内容と重なるものをいくつかご紹介出来たらと思っています。また、「呪物コーナー」に関連して、某博物館から秋田に伝わる貴重な呪物をお借りすることが決まりました。こちらのお話もさせていただきます。

Writerこの記事を書いた人

投稿者:小松 和彦
郷土史研究 小松 和彦
工芸ギャラリー・小松クラフトスペース店主 『秋田県の遊廓跡を歩く』(カストリ出版)、 『新あきたよもやま』(秋田魁新聞デジタル版) などを執筆。 http://www.komatsucraft.com/ Twitter @Komatsucraft