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<後編>石巻の講演旅は熱かった!講演編

投稿者:宮原 葉月 投稿者:宮原 葉月 宮原 葉月

 前回のブログからの続きです。絵画展の搬入を終えた私たちは、講演会の準備に入りました。

【目次】
▼講演の様子
▼ワークショップの様子
▼打ち上げの様子
▼<特別編>道祖神と仙台の書店巡り

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絵画展のその後の様子 道祖神とふるさと編

 今回の講演は「南陀楼さんが聞き役となり、私たちと問答していく様子を通じて『石巻の皆様に、地元の言い伝えや民間信仰を掘り起こしていくヒントやきっかけをみつけてほしい』」ことがメイン。そのため、前半のスライドトークの尺を20分以内に収める必要がありました。いつも1時間半はお話しするので、これがなかなか難しい。

 17時前に、講演会場の「旧観慶丸(かんけいまる)商店」に向かいました。こちらは1930年に建築された木造3階建ての建物で、市の有形文化財です。
 「こんな素敵な場所で講演させていただけるなんて」と2人ともワクワクしてきました。

 会場は既にセッティングされていました(ありがとうございます!)。今回はオンライン配信があるので、音響のセッティングも本格的。
 開演の18時近くになると、少しずつお客様が集まって来ました。勝さんがソソソとやって来られて「当日お申込みのお客様が多いですよ」と教えてくれました。「え!?」と3人の間に喜びが広がります。

 「南陀楼さん達のイベントだから」と毎回楽しみにしていらっしゃるお客様も。「いしのまき本の教室」の活動は、地元にしっかり根付いています。

 結局スライドトークは予定より2分押しましたが、誤差の範囲内として南陀楼さんに調整していただきました。ほっ。お次は3人でのクロストークです。

写真:勝さん提供

 南陀楼さんから鋭いご質問を次々頂戴し、それに対して回答していきました。ご観覧の皆様にとって、果たしてきちんと参考になれているのかわかりませんでしたが、「リサーチは本気で面白い。誰がなんと言おうとも、これだけはやり続ける」という熱量、そしてこれまで挑戦してきた数々の展示や講演から学んだ経験については、自信をもってお話しできたと思います。

 また「道祖神の絵については?」と南陀楼さんに話を振ってもらったので「リサーチをして感じとった集落の熱量を、全て絵に注ぎ込んでいます。本物の神様はワラや木で作られるので素朴な色合いですが、作り替えのエネルギーは凄まじく、絵にするとどうしてもカラフルになる。また、作る過程もじっくり拝見させていただくので、構造が頭に入ってきます。どれだけ自由に描いても、構造の表現は守る。集落の方に「この絵は自分のところの神様だ」とわかっていただくことはとても大事」と回答いたしました。

写真:勝さん提供

 石巻市在住のノンフィクション作家、大島 幹雄さんが来場されていたので、一緒にお話しさせていただきました。個人的に絵のことも評価してくださり感激いたしました。(今後の励みにさせていただきます!)
 大島さんは「石巻学プロジェクト」の代表を務められ、これまで地域誌「石巻学」を6号まで刊行されています。また、以前大島さんが企画された「石巻若宮丸漂流民の会」のイベントへ、小松さんは参加したことがあるそうですよ。

 後半は2つの班に分かれ、1時間のワークショップが行われました。普段何気なく見過ごしていた地域の行事や民間信仰や言い伝えを持ち寄り、みんなでイラストマップをつくります。各グループでお一人ずつ関連することを気軽に話し合い、それを事前に配布されたA4用紙に記入していただきます。そして最後に、皆さんの前で発表してもらう流れ。

 私が居た班では、時計回りにお一人ずつお話していただきました。
 和歌山ご出身のKさんは、石巻に暮らして30年になります。海や川で釣りをするのが大好きで、「ウナギを供養する鰻(うなぎ)塚があるんですよ」と教えていただきました。鰻がよく食べられていたようです。

 Kさんの奥様のお話も伺いました。「私は言い伝えをあまり知らなくて・・・」とおっしゃいますが、「さきほど話に出た『カマガミサマ(※)』のことなら。今頃は(よく行く)お寿司屋さんの店内に飾られるなど装飾用や、お土産用のものが多いです」「本物のお面ではなく、カマガミサマが描かれた紙を貼ったりもしますよ」とのお話に、「お札のようにカマガミサマを紙にするのですか、(信仰の形が変化し生き続ける様子が)面白いです!」とつい前のめりになりました。
 ※カマガミ(竈神):火事が起きないよう「火伏せ」として竈(かまど)の上に祀られる木や土で作られたお面。岩手県から宮城県の旧伊達藩領に分布している。

 牡鹿半島でカフェを運営されているKご夫妻にもお話を伺いました。現在カフェは土曜日のみ営業されているそう。お2人共にお若く、ご主人は地元のご出身で漁業を営み、奥様は仙台のご出身。ご主人にとっては「当たり前で普通だと思っていた」伝統行事が、奥様にとっては大変興味深いものなのだとか。そこで奥様は、地元の方に昔の話や料理についていろいろ教わっているそう。
 そんなお2人のお話は、夏に神主さんが祝詞を上げながらきゅうりを海に流す神事のこと。その儀式が行われるまで、集落ではきゅうりを食べることができません。

 海ときゅうりの神事に驚きましたが、お隣の男性も「7月になると近くの神社で、家族全員分のきゅうりをお供えします」「川にきゅうりを流します」と水難除けの風習についてお話してくださいました。徐々にグループ内で熱気を帯びてくるのを感じながら、「野菜で作った人形を展示するお祭りがあります。結構本格的ですよ」というお話も出ました。後日ネットで調べてみると「旭町野菜祭り」であることが判明。

 他にも、女川には神の啓示をうけるシャーマンのような方がいたというお話もありました。秋田とはまた異なる民間信仰や言い伝えを皆様と共有することができ、本当に本当に、貴重な時間でした。
 その後は時間が押してしまい、グループでの対話は途中で終わりました(もっと時間を頂いて話し込みたかったのです・・・!)。しかし最後に、お一人ずつ全員の前で発表してもらうことができました。
 皆様がたくさん発表してくださったので、当初の予定「地域のお宝をマップ上で展開する」から、記入いただいた紙を本のようにまとめて閲覧する形式へ変更しました。

勝さんが作ってくださった宮城県マップ(左)と石巻市マップ(右)

 熱い夜が終わりました。
 イベントに沢山のご来場とオンラインでのご参加、誠にありがとうございました!

 名残惜しくも会場を出、南陀楼さんと勝さん、そして鰻塚のことを教えてくださったKさんと駅前で夕食をご一緒いたしました。(この日は土曜日でしたが、どのお店も満員でびっくり。ボーナス支給日の翌日だったからでしょうか)

<左>金華さばのお刺身。「金華さば」とは、金華山沖で漁獲され、石巻魚市場で水揚げされた大きな真さばとのこと。おいしい!
<右>せり鍋。秋田名産の「三関せり」のように、石巻では「河北せり」が栽培されているそうです。せりの匂いを嗅ぐと、きりたんぽが懐かしくなってきました

 「時間が足りなくなるくらい、ワークショップが盛り上がりましたね。始めにあなたがたに話をしてもらったので、皆さんから色々話が出てきたのだと思いますよ」と南陀楼さん。「お2人には遠くから来てもらってよかったです」とにこっとしながらお話しされました。南陀楼さんの笑顔を見て、ほおっと安堵のため息。喜んでいただけたのが一番嬉しい。こちらこそ、「石巻まちの本棚」さんのお声掛けがなければ、こうした熱い時間は生まれなかったはず。地元の皆様とつながる大切な場所にお招きくださり、心から感謝いたします。

宿泊先のフタバインのすぐ近く、住吉神社の鐘楼とその奥に流れる旧北上川河口部
この辺りも震災で被災しました。市街を守るための堤防が作られ、現在神社がある敷地は以前に比べてだいぶかさ上げされたそう

 「本の教室のゲストで来られる方は、いつも『石巻は大きな町なんだね』と言って帰られるんですよ」と勝さん。確かに、石巻を訪れた時は私もそう感じましたが、ワークショップを経てみれば、「人形道祖神が今でも多数残る秋田もすごいが、言い伝えや民間信仰が詰まっている石巻も、秋田と同じ位ディープな街である」「まだまだとてつもない『地域のお宝』が眠っているであろう場所」と印象が180度変わりました。

 南陀楼さん、勝さん、そして「石巻まちの本棚」のスタッフの皆様、この度は貴重な機会をご一緒させていただき誠にありがとうございました!

絵画展の搬入のときに撮影
左から、小松さん、私、勝さん、南陀楼さん

絵画展は1月16日まで

 絵画展は引き続き開催されていますので、お近くにお寄りの際はぜひ、お立ち寄りくださいませ。ワークショップで作った冊子「地域のお宝」もご覧いただけますよ。

『村を守る不思議な神様・秋田人形道祖神プロジェクト石巻展』
日時:2021年12月12日(日)〜 2022年1月16日(日)11時~18時
*土日月のみ営業 
*年末年始休業 12月27日(月)〜1月7日(金)
場所:石巻まちの本棚(宮城県石巻市中央2-3-16 たん書房ビル1F)

<特別編>道祖神と書店巡り

 講演の翌日は、石巻市内の「零羊崎(ひつじさき)神社」に寄りました。


 その後、仙台市へ。「村を守る不思議な神様」をお取り扱いいただいている書店様が市内に沢山あるので全部周りたかったのですが、時間が無くて一軒だけ伺いました。
 私たちの書籍を自費出版時から取り扱ってくださっている「曲線」さん(仙台市青葉区八幡)です。ビルの合間にひっそりお店を構えていらっしゃいます。石巻ではみなさんに「曲線は行った方がよい」とアドバイスされたので、これは何かあるなと楽しみにしていました。

コーヒーや紅茶も注文できます。テイクアウトしたコーヒーは、スッキリ飲みやすく、大変美味しかったです。
新刊も取り扱っていただいていました!

 お店に入った途端、改装された古民家の雰囲気、棚に並ぶ書籍セレクト、窓からみえるお庭が目に飛びこみ、都会の喧騒から逃れて落ち着ける場所、秘密基地のようにワクワクする場所だと思いました。みなさんがお勧めする理由がわかります。

 オーナーの菅原さんにご挨拶。すると「今石巻でイベントをされていますよね」と絵画展のことをご存知でした。嬉しい。こうして、本を通じてご縁を紡ぐ幸せを噛みしめました。また寄らせていただきます!

 もっと書店巡りをしたかったのですが、既に夕方の4時。そろそろ帰る時間になりました。秋田から車でやってきた小松さんご一家は、これから3時間をかけて戻ります。私は飛行機で大阪へ。仙台駅で「また会う日まで!」とお別れしました。次に会えるのは、カシマサマの作り替えラッシュが始まる春頃になるでしょうか・・・

 ディープな石巻旅は、こうして終わりました。まだまだ「地域のお宝」が眠っているであろう石巻市。また是非伺いたいと思います。

 本年も大変お世話になりました。皆様のご支援のおかげで、これまで精力的に活動することができました。来年も元気にやってまいりたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

Writerこの記事を書いた人

投稿者:宮原 葉月
イラストレーター 宮原 葉月
広告・書籍・雑誌でイラストを描く。 「LOWELL Things」(ABAHOUSE)とのコラボバッグ、 シリーズ累計49万部「服を買うなら捨てなさい」(宝島社) 装画等を担当。 http://hacco.hacca.jp Twitter @hatsukimiyahara