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人形道祖神の聖地で講演会(後編)

投稿者:小松 和彦 投稿者:小松 和彦 小松 和彦

1月22日、午後1時から大館市山田の交流サロン「カフェあっこ」でスライドトーク『ジンジョサマとカシマサマ』が始まりました。会場には地元の17名の皆様にお集りいただきました。

今回は山田集落の人形道祖神・ジンジョサマを中心に秋田県内の事例を写真や動画で説明。会場の換気を兼ねた休憩時間と質疑応答を含めて約2時間ほどお話ししました。

ジンジョサマに関する講演の内容を一部、ご紹介します。

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新明岱のジンジョサマ(2020年撮影)

①山田はなぜ「人形道祖神の聖地」なのか?

秋田県内では150カ所以上に祀られている人形道祖神。高さ4メートルを超す藁人形や数々の強豪がひしめきあう中で、なぜ私たちが山田を「人形道祖神の聖地」と呼んでいるかと言えば、次のような理由からです。

・一集落に16体!圧倒的な数
山田集落には男女一対のジンジョサマが8カ所、計16体いらっしゃいます。それぞれ地区の常会(町内)でお祀りするのも特徴です。一集落で祀られている数としては2位の能代市鶴形の6カ所(各1体)に倍以上の差をつけてぶっちぎりの1位。そして「男女一対」、「共に立派な性器を持つ」という人形道祖神の古い形態を残しています。

・独特の儀式や古いまじない
毎年「旧暦10月末日の前日」に催される「ジンジョ祭り」では、各常会が 当番(宿)の家でジンジョサマを衣替えした後、その家でお祭りを行います。ほとんどの人形道祖神の行事が日曜祝日に集会所で行われるようになった現在、旧暦の決められた日に当番のお宅で執り行われているのはおそらくここだけです。

八皿の儀(2020年撮影)

祭りは供物である粢(しとぎ)の数や、料理の置き方まで決まりがある神聖な儀式。さらに「八皿の儀」、「窓ふさぎ」といった古い「まじない」が見られることも特筆すべき点。私はこれらを「今に生きる菅江真澄の世界」と紹介しました。(詳しい理由については『村を守る不思議な神様・永久保存版』にて)

ジンジョ祭りの「ぶっつけ」の様子(2018年撮影)

・奇祭にして祝祭
なんといってもジンジョ祭りのハイライトは隣り合った常会の男神と女神を交わらせるようにぶつけあう「ぶっつけ」。 これぞまさに道祖神の祝祭!コロナ禍ということもあってここ数年行われていませんが、この行事が復活することを心から待ち望んでおります。

②ジンジョ祭りが「旧暦の10月末日の前日」に行われる理由とは?

講演当日、会場入口に貼られたホワイトボードに「ジンジョ様って!!何故、旧暦10月末?に執うの?」と書いてあるのを見て、「この話は必ずしなければ!」と思いました。

私たちにとっての教科書である 『人形道祖神・境界神の原像』 (神野善治・著)にはジンジョ祭りの2日後に「雇人(カルコ)出し」の行事があり、農作業などを手伝っていた雇人を翌年の契約をして実家へ帰した、とあります。これとは別に、新明岱常会の取材をした際、田村政一さん(昭和10年生まれ)から聞いた話では「ジンジョ祭りの翌日に雇人に家禄(カロク)を出して一年の務めを清算した」そうです。旧暦10月末日が今でいう「仕事納め」で、その前に一年の無事と収穫を祝う祭りだったのでしょう。

かつて行われていた春のジンジョ祭りは「土用(4月下旬頃)のクワオロシの前」にやっていたとのこと。神野善治先生は「祭りはともに農作業の大切な区切りの時期に行われていた」と考察されております。

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赤坂常会のジンジョサマ(2018年撮影)

またジンジョサマの女神は山の神に比定されています。宿のお宅にジンジョサマをお祀りする時は女神の背後に「山神」の掛軸が掛けられ、そこに供えられたお酒を女性は飲んではいけない(嫉妬されるから)というルールがあります。この祭りには春に山から田に降りてきた神様を、再び山へと帰すという意味もあるのかもしれません。

2020年、集落の有志の手で作られ、角川武蔵野ミュージアム(所沢市)に展示されたジンジョサマ

③戦前の文献資料に書かれた独特の婚姻習俗

これは私が地元の皆さんに是非聞いてみたいと思っていた話です。『民俗學・第四巻第二号』(昭和7年)掲載の「米代川中流扇田附近の土俗」で山田の結婚に関する風習について触れている箇所がありました。

3月15日の村祭りでは女のグループと男のグループに分かれて八幡社の境内に集まる。そこでお互い批評し合い、未婚者が結婚すべき人をそこで決めて家へ帰り、家族に相談して決める。それで春に7、8軒も結婚式が行われ、宴は一週間も続き太鼓の音が毎夜続く。一般に早婚で他の集落から嫁を入れず、また女性を他に嫁に出さないようにする。(要約)

この本の著者は現地には来ておらず、扇田(大館市)で伝え聞いた内容を元に書いております。非常に興味深い内容なので、山田の皆さんにこれが事実なのかどうか確かめてみたかったのです。

まず村祭りでの「集団お見合い」については「それは知らない」、「聞いたことがない」とのこと。しかし、「村内婚」については「昔はそうだったらしい」、「80代以上のおばあさんで他から来た人はほとんどいない」という声が聞かれました。元々、閉鎖的だった村の風土が、ジンジョサマに代表される古い民間信仰が残る一つの要因になったのかもしれません。

私が以前、工芸品の買い付けのためによく行っていた東南アジアでも同じような婚姻習俗を持つ村がありました。これについては改めて書きたいと思います。

講演会の様子は秋田魁新報に掲載されました。電子版でもご覧になれます(こちら

参加された地元の皆さんからは「すごく元気づけられた」、「地元でも今まで知らなかったことがあった」という嬉しいお言葉を頂戴しました。会長の赤坂さんは「ジンジョサマをたくさんの人に見てもらうことが大事だと感じた」とおっしゃられました。山田集落の「今に生きる菅江真澄の世界」としての魅力を多くの人に知って欲しいです。

昨年秋以降、頻繁に講演会を開催してきましたが、「道祖神のお膝元」でお話させていただくのはやはり特別でした。このような貴重な機会を与えて頂いた山田集落の皆さま、本当にありがとうございました。

『村を守る不思議な神様2』の出版記念イベント(2019年)

そして 『村を守る不思議な神様・永久保存版』(KADOKAWA)の出版記念イベントをまだやっていなかった!ということを今さらながら気づきました。秋田県内では秋田人形道祖神プロジェクトとして登壇するトークイベントを1年以上やっていません。たまにはソロ活動もいいのですが、やはり二人揃わないと伝えられないことがたくさんあります。

いずれ宮原さんが秋田に来るタイミングでイベントを開催できたらいいな、と思っています。まずはコロナ禍が落ち着いてから、なのですが…。

この1月から宮城県内で発行部数ナンバーワンを誇る河北新報の連載「座標」を月一で担当することになりました。人形道祖神をはじめ秋田の伝統行事や花柳界のことなどを書いていく予定です。

Writerこの記事を書いた人

投稿者:小松 和彦
郷土史研究 小松 和彦
工芸ギャラリー・小松クラフトスペース店主 『秋田県の遊廓跡を歩く』(カストリ出版)、 『新あきたよもやま』(秋田魁新聞デジタル版) などを執筆。 http://www.komatsucraft.com/ Twitter @Komatsucraft