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<番外編>(前編)四国のタヌキ伝承学 ~香川・琴平でイベントスタート!

投稿者:宮原 葉月 投稿者:宮原 葉月 宮原 葉月

 7月20日より香川県琴平にある「琴平文具店」さんで特別展示「真・四国タヌキ学」がスタートしました!
 突然「タヌキ伝承」のシリーズが始まりますが、人形道祖神ブログの番外編としてお楽しみいただければと思います。

 四国ではなぜかキツネではなく、「タヌキ」の怪異事例が多いとされています(※)。「山でタヌキ火をみた」、「タヌキに化かされた」という身近な話から、阿波狸合戦等の有名なタヌキ伝説まで、四国の分布マップが作れないほどバリエーションがあります。
  「タヌキの絵を描いてみませんか。四国のタヌキ伝説を追ってみたい」と、ANP(秋田人形道祖神プロジェクト)の活動をお知りになった「シコック」さんがお声をかけてくださり、このたびの四国プロジェクトが生まれました。

※参照:「みえる狐、みえない狸 ~計量妖怪学の第一歩」山田奨治氏著

●関連ブログ
展示告知 ~展示の経緯と概略について
(前編)展示の搬入とオンライントークライブ ←今回のブログ
(中編)タヌキ伝承の基礎知識 ~徳島県立博物館の学芸員・磯本さん登場
(後編)リサーチとアート ~タヌキ絵のご紹介

●目次
・会場の様子
・大阪から琴平へ
・夜はタヌキのオンライントークライブ
・トークの路線を急遽変更
・そして本番

会場の様子

展示の一部をご紹介します


 特設会場「真・四国タヌキ学」では、今回ご一緒した「シコック」のみなさんと拾い集めた印象的な言葉や解説、タヌキ伝承に関する貴重な資料「狸伝説大番附(元は明治終わりに作られたもの)」等が展示されます。また、わたくし宮原がタヌキに魅せられ描き起こした4つのタヌキ伝承の原画作品もお楽しみください。

 原画に関して、 「金長タヌキ原画のピンクは蛍光で鮮やか。印刷とはまた違う」、「丸い喜左衛門の絵は原画でないと出せない色」など、シコックのみなさんの感想がとても勉強になりました。

大阪から琴平へ

 展示当日、西日本は梅雨が明け、本格的な猛暑を迎えました。大阪の自宅から会場の香川・琴平へ移動します。
 新大阪から新幹線に乗車し岡山に到着。岡山から琴平まで直通の特急・南風と時間が合わず、松山行きの特急「しおかぜ」で多度津に向かい、そこからJR土讃線で琴平に到着。およそ2時間の旅でした。

 琴平駅から歩いて6分ほどで会場の琴平文具店さんに到着。
 お店にいると、たくさんのお客様が入店されるのがわかります。オーダーメイドの「コトノート」を作られる方、観光客の方(琴平町は2018年、台湾の新北市瑞芳区と友好交流協定を締結したことで台湾からのお客様も多い)、店内の「おやつの棚」のお菓子を買いに来られたご家族、文具店さんオリジナル「塩アイス」を食べに来られた方々・・・琴平文具店さんはなかなかの人気店です。

 またお店の前の通りは行き交う人も多く、とりわけ高齢の女性のお姿をよく見かけました。目が合うとよそ者の私に挨拶してくださいます。「昔この商店街で働いていた方々だと思う。接客に慣れていらっしゃるんですよ」と地元の方に教えていただきました。

 時刻は12時半。近くのうどんや「いわのや」でお昼を食べました。ぶっかけうどんの歯ごたえが、本場ならではのもの。おいしいと評判のうどん屋さんで、次から次へとお客さんが入ってきました。下記の写真はお店の入口にいたタヌキ。

夜はタヌキのオンライントークライブ

 18時から始まるトークライブの1時間ほど前に、愛媛の松山からこの日のゲスト・小椋浩介さんと研究員のAさんが車で到着されました。小椋さんとお会いするのはこれで2回目。6月に「松山兎月庵」(愛媛県松山市)でタヌキについてたくさんレクチャーしていただきました。

今年6月に「松山兎月庵」で拝見した歴史美術家・小椋さんが所蔵する貴重な資料

 小椋さんは様々な肩書をお持ちで、美術歴史家、舞台演出家、松山兎月庵(とげつあん)文化歴史館の館長・・・と枚挙にいとまがありません。そのうえ「講演は慣れています。先日も(某テレビ局の)スタジオで話してきましたよ」とおっしゃっていました。

 そんな大人気の小椋さんを 「今回のトークライブにぜひお呼びしたい」と考えたシコック・ディレクターのYさんは、2時間かけて小椋さんと交渉。その話を聞いた私は、これから小椋さんと掛け合いをさせていただくので、大きなプレッシャーで押しつぶされそうになりました。

 また個人的に小椋さんが大切に考えられている松山のタヌキ「隠神刑部(いぬがみぎょうぶ)」の絵を大胆に解釈したので、お叱りを受けるかもしれない、という一抹の不安もありました。(絵の解釈については、「リサーチとアート編」にてご紹介)

トークの路線を変更

手前の男性は今回の配信を担当されたKDさん。スムーズなカメラワークに感動

 前述の小椋さんが到着される前、シコック・タヌキチームのメンバーで打ち合わせをしました。みなさんと一緒に調査をしたので話がサクサクと決まっていったのですが・・・隣で話を聞かれていたビデオグラファーのKDさんが「途中から何を言ってるのかわからなくなり、ついていけなくなった。隠神刑部って何?」と口にされました。KDさんは20代の朗らかな男性で、今回の配信を一手に引き受ける方。先日のタヌキ旅に同行されていませんでした。

 KDさんの言葉にハッとした私は、「このままではわかりづらいかもしれない。タヌキの伝承を全く知らなかった状態を思い出さないと」と急遽考え方を変更。

 またディレクターのYさんのアドバイスもあり、各々一人ずつ話すのではなく、小椋さんとの掛け合いを優先することに。私はタヌキ学の初心者として質問させていただき、小椋さんに少しでも気持ちよくお話ししていただけたら。また、私の担当分「絵の解説」はお話しするタイミングがあれば、という感じにしました。

そして本番

 ライブ終了まで気が抜けず、個人的にとても長く感じました。とはいえ、小椋さんはお話上手なのでやりとりがとても楽しかったです。

 四国におけるタヌキの伝承について、歴史からわかりやすく解説していただきました。今になって「南海道」やお遍路さんのことをもっとお聞きすればよかった、どうやら愛媛や徳島に比べて高知県のタヌキ伝承の少なさに関係するらしい、と思ってみたり。

 個人的に印象的だったのは、高速道路の「動物注意の看板」の話題。
 小椋さんが「(宮原が描いた青木藤太郎の)絵のポーズが、本日ここに来るときに使った高速道路の看板に描かれたタヌキのポーズと似ている。」「他の高速ではタヌキが別のポーズをしている。調べてみたらそれぞれに意味があるかもしれない」


 他にも、「タヌキは神様・眷属か、もしくは妖怪か」の問いに対して、「それはその人次第」という哲学的なお話も興味深かったです。


 また今回の一番のメイン 「タヌキの中庸な生き方」についてもわかりやすく解説していただきました。このあたりは特別展示でより詳しい記述をお楽しみいただけるかと思います。

 視聴者の皆様からの質問もたくさんいただきました。例えば「日本三大狸伝説(分福茶釜・八百八狸物語・證誠寺)はどのようにして決まったのか」、「六右衛門と鹿の子姫の絵を描いてほしい」というもの。タヌキの伝承にお詳しい方も視聴してくださったことを知りました。また「タヌキの解説が面白かった!」、「四国の見方が変わった」など楽しんでいただけたお声も多々頂戴いたしました。

 この度は1時間半もの長いトークライブでしたが、「ずっと視聴人数が安定していた」とシコックチームのみなさんが喜んでいたのがとても嬉しく、ご視聴くださった皆さま、ありがとうございました!

トークライブ用に作成した8枚の線画をフルに使いました。ディレクターのYさんも「あってよかったです」と喜んでくださったので、秋田人形道祖神プロジェクトの活動での経験が活きてよかった

 小椋さんと研究員のAさんも今回のトークライブを楽しんでくださったようで、シコック・タヌキチームとの距離感がグッと縮まったことを感じています。

 絵につきましても、「最初はなんじゃこりゃと思いましたが、みればみるほど頭の中に入ってくる。イラストというよりは、アートでしょうね」という、古美術や草間彌生さんなど現代アートを取り扱われている小椋さんの言葉が大きな励みとなりました。

 最後に小椋さんから教えていただいた言葉をご紹介します。 

 「はらのたたぬ生き方。狸窟話罷通(りくつはまかりとおる)」

 次回は、民俗学的にみた四国のタヌキ学についてです。どうぞお楽しみに。

 またこのあとの打ち上げの様子について、「シコック」メンバーのご紹介や四国の地鶏料理、現在は山間部の小さな町が明治時代は最先端の工業地で驚いたお話は、宮原のブログ「打ち上げの夜~タヌキ伝承が生まれる山谷へ」をご覧ください。

●関連ブログ
展示告知 ~展示の経緯と概略について
(前編)展示の搬入とオンライントークライブ ←今回のブログ
(中編)タヌキ伝承の基礎知識 ~徳島県立博物館の学芸員・磯本さん登場
(後編)リサーチとアート ~タヌキ絵のご紹介

夏の特別展示は8月26日まで!

特別展示「真・四国タヌキ学」

日時:7月20日(土)~8月26日(月)
   ※閉会日は変更になる可能性があるのでお問い合わせください
場所:琴平文具店
   香川県仲多度郡琴平町 183番地/TEL 0877-58-8188
   営業日 13:00-17:00 (定休日:火曜、水曜)
主催:シコック

Writerこの記事を書いた人

投稿者:宮原 葉月
イラストレーター 宮原 葉月
広告・書籍・雑誌でイラストを描く。 「LOWELL Things」(ABAHOUSE)とのコラボバッグ、 シリーズ累計49万部「服を買うなら捨てなさい」(宝島社) 装画等を担当。 http://hacco.hacca.jp Twitter @hatsukimiyahara