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【動画あり】万灯火から百万遍へ~北秋田の春彼岸行事

投稿者:小松 和彦 投稿者:小松 和彦 小松 和彦

新年度に入ったと思ったら、あっという間にGWに突入です。今年の3月後半~4月前半は取材が盛りだくさんでした。まずは前回の平田森のボーノ神送りの後に取材した秋田県内の春彼岸行事をご紹介しましょう。

秋田県北部では、春彼岸に火を焚いて先祖の霊を供養する行事が各地で行われています。2020年に取材した能代市鶴形の「ジンジョ焼き」もその一つ。これは彼岸の中日、男(ジジ)と女(ババ)のジンジョと呼ばれる藁の山を作り、3月23、または24日の「送り彼岸」にこれらを燃やすというもの。18日の「入り彼岸」、20日の「中彼岸」、そして「送り彼岸」の3回、念仏講による百万遍も行われていました(詳しくはこちら

鶴形のジンジョ焼き(2020年撮影)

同じような春彼岸の火祭りは上小阿仁村や北秋田市でも「万灯火(まとび)」という名称で行われています。現在は灯油をしみ込ませたダンポ(球状の布)を使って火文字を作るスタイルが一般的ですが、かつては鶴形のように藁を束ねたものを燃やしていたようです。東北芸術工科大学の学生・多賀糸尊さんから「上小阿仁では万灯火の後の送り彼岸に百万遍をやっている集落がある」という情報をいただき、3月20日(彼岸の中日)の万灯火、そして23日の百万遍を一緒に取材することになりました。

3月20日、上小阿仁へ行く前に潟上市天王大崎の百万遍行事を取材しました。この集落では彼岸の入り、中日、送りの3回に分けて、念仏講の女性たちが各家々や地蔵様の前で数珠回しを行います。その様子を動画でご覧ください。

女性たちが唱えているのは「モシェモシェナンマイダ」。これは男鹿南秋地域の百万遍でよく唱えられている念仏で、「モシェ」とは「申せ」のことだと思われます。

数珠回しを行う前に、藁の束を家の門口に結えます。これは念仏講が来た証とのこと。本来は魔除けの役割があると思われます。大崎の百万遍は災いを祓い、無病息災を祈願する行事。これが終わると、本格的に農作業が始まります。

そして、上小阿仁へ。万灯火を見るのは今回が初めて。午後6時から村内9集落の点火場所を巡るバスツアーがあり、これに参加させてもらいました。

各集落ではバスが来るのにあわせて万灯火を点火。バスガイドさんがそれぞれの見どころを紹介してくれます。基本スタイルは「中日」の火文字で、場所によっては火の玉が回転する「車万灯火」が併設されることも。藁の束を燃している所はもうないそうです。

最終地点の小沢田では万灯火と花火のコラボ。上小阿仁の万灯火はまさに村を代表するビッグイベントでした。

3月23日、いよいよ百万遍念仏の取材です。現在、上小阿仁村内で百万遍を行っている集落は上仏社、大林、小田瀬など。まずは午前10時から念仏が始まる上仏社へ向かいました。

上仏社の春彼岸行事は入り、中日、送りの3回お墓参りをし、中日に万灯火、送りに念仏を行います。秋彼岸の最終日にも念仏を行うとのこと。会場は村の中心部にある集会所です。

この日はなんと、上仏社の後に、小田瀬、さらに午後は北秋田市森吉の根森田でも百万遍念仏を取材することができました。まずは三カ所の念仏を動画にまとめましたのでご覧下さい。

各集落の念仏について簡単な比較をすると、
・上仏社では念仏は唱えずに数珠を回す。小田瀬、根森田は「ナンマイダブツナンマイダ」と唱える。
・小田瀬では数珠を片付ける際「シバヤマサ ヤッテグネェーダー ホーイホイ」と唱えてから二人一組で手繰り寄せる。先祖の霊が帰って欲しくないという意味とのこと。
・いずれの集落も中日には万灯火を行う。
・数珠を回す回数(30~100回)は豆で数える。
・念仏講は基本女性だけ。女性の講中には他にも唐松様がある。唐松様は毎月、または二カ月に一回、8日の午前中に集まり、掛軸を拝んでから会食。男性の講中は庚申様。

その他、書ききれないほどの情報がありますが、いずれは百万遍念仏をテーマにまとめてみたいです。人形立て行事に伴う事例も含めると、かなりの念仏のデータが揃ってきました。なんと言っても念仏の魅力は集落によって個性があること。この度の取材でより「念仏熱」が高まったような気がします。秋田県内にはまだまだこの行事を継承している地域があるので、人形立てや鹿島行事と並行して取材を進めていきたいと思っております。

Writerこの記事を書いた人

投稿者:小松 和彦
郷土史研究 小松 和彦
工芸ギャラリー・小松クラフトスペース店主 『秋田県の遊廓跡を歩く』(カストリ出版)、 『新あきたよもやま』(秋田魁新聞デジタル版) などを執筆。 http://www.komatsucraft.com/ Twitter @Komatsucraft